183話
「うん?何か重たいような…」
「ふへへへ、起きた?」
「な!」
「どうかしたの?」
「いえ、なんでもありません…」
起きてそうそうに、美女の顔を見られるというのはいいことだが…
ただ、全裸なのはどういうことなのかを聞きたい。
そんな俺の疑問に答えるかのように、デスサイズを使っていた彼女は言う。
「こう見えても、部屋の中では裸族なの。ふへへへ、驚いた?」
「いえ、むしろありがたいまではあるな」
ただ、肝心の胸はその長い髪で隠れているし、下も近くにいるので見えることはない。
じゃあ動いてみればいいのではと思うかもしれないが、こう見えても捕まっている身だ。
普通に拘束されているので、こういうときに何かができないのはつらい。
まあ、今回はなんとか目隠しがないので前よりもましではあるが…
こういう美女が近くにいて、触れないというのも生殺しといえばいいのだろうか、それなので俺のヘンタイスキルは高まっている。
だからどうしたというのはあるかもだが…
彼女は、俺が起きたということで、服を着た。
チラッと見えたが、下着はつけないみたいだ。
く、まてまて、こんなところで何を想像しているんだ俺は…
静まれ!
俺はあほなことを考えながらも、拘束が解かれるのを待つ。
彼女は簡単に俺の拘束を解いてくれた。
「なんとなく外してくれる気はしていたが、いいのか?」
「ふへへへ、いいのよ。うちとしては別にあなたのことを殺すとか、拷問するとかなんてことをするつもりは全くなかったしね」
「そうなのか?」
「うんうん」
「それで、俺はこれから何をしたらいいんだ?」
「ふへへへ、そういうところをすぐに察してくれるから、あなたのことがうちは好きだな」
「そ、そうか…」
「ふへへへ、照れてるの?」
「まあ、そこまで直球に言われるとな」
「ふへへへ、よかった。それなら、ちゃんとうちの話しを聞いてくれそうね」
「一応な」
そうなのだ。
今の俺は、わかるとは思うが装備がない。
パンツもブラジャーも取り上げられて、ヘンタイスキルを底上げできるものがない。
その状態で、最低でも同じくらいの強さである、この女性と戦うことになれば負けることが確定している。
対策なのかはわからないが、下着も履いていないということを考えると、俺のスキルのことを理解しているとしか考えられないし、余計に警戒しなくちゃいけない。
そんな俺とは違い、女性は、どこか嬉しそうだ。
「ふへへへ、それじゃ、やってほしいことを言うね」
「ああ、なんだ?」
「馬に乗っている槍を使うじじいのことを知ってるかな?」
「ああ、一回戦ったからな」
「ふへへへ、それなら話が早いね。うちのために、そいつを倒してほしいんだ」
「それについては、別にいいぞ、俺もあいつとはなんとなく戦わないといけない気がしてるからな」
「ふへへへ、それは面白い縁になりそうね」
「いやではあるがな」
「それなら話が早いあなたに一つ、うちとやってほしいことがあるんだよね」
「まあ、今は話を聞いてやるよ」
「これを着て」
そうして渡されたのは、なんということだろう。
紳士服だ。
なるほどな、どことなく執事っぽい服だな。
「おい、これって…」
「ふへへへ、やっぱりうちらは通じあっちゃうよね」
「いや、こうなるとは俺も思わなかったけどな」
「そうなの?」
「ああ」
そう、何をさせられているのか?
執事服のようだからと、俺は普通に召使いの真似事をするものだと思っていた。
ただ、違っていた。
これは俺の考えが甘かったということだろう。
「ふへへへ、まあエスコートをしてくれる相手がいることは、うちには喜びなんだよ」
「いや、注目を考えてくれよ」
「ふへへへ、いいでしょ?」
そういいながら、俺は抱き着かれる。
ここに来るまでに教えてもらった彼女の名前は、ネクラ。
確かに見た目はそうかもしれないが、このようにその胸を押し付けられるなんてことをするのは、本当の根暗はできないはずだと、意味のわからないことを考える。
まあ、何が言いたいのかという、この状況から逃げ出したいということだ。
さっきから、このネクラといるのはパーティー会場。
そして、俺に与えられた役割というのが、ネクラの相手役。
あれだ、パートナーとかって呼ばれるやつなのだろう。
ただ、言っておく。
俺は童貞で、結婚式にも数えるほどしか参加したことがないということで、こういうパーティーなんかの現実でありえなかったんだ。
だから…
「ふへへへ、こけて、うちの胸に飛び込んでくれても大丈夫だよ」
「く、そうしたいところだけどな。俺もこの視線の中ではしたくないんだよ」
「へえ、あんな女性の下着を頭にかぶってるのに?」
「あれはスキルを使うために仕方なくだからな」
「ふへへへ、そういうことにしておくね」
ダンスで何度も転びそうになるのをなんとか耐えるのも難しい。
言われたように、胸に飛び込めと言われれば、女性に言われた通りにしたいのもやまやまだが、パーティーで女性の胸に飛び込むなんて、カッコ悪いし、さらには注目を集めているときにそんなことをしたくない。
まあ、できるなら胸というよりもスカートの中であれば、一つ考えてもいいことだが…
おっと、欲望に忠実になってしまったな。
そんなあほなことを考えながらも、パーティーは終わりを迎えるはずだった。
でも、忘れてはいけなかった。
このパーティーが、実は次に行われる、剣術大会のためのものだったということを…
「おい!」
ダンスを終えた俺たちにそんな声をかけてくる人がいたのだ。
声だけで、なんとなくわかった相手は…
予想通りというべきか、あのおっさんだった。
「おい、どうしてネクラの隣にいる」
「ふへへへ、ジンバにはごめんなさいだけど、うちにも相手ができてね」
「なんだと!おい、勝負だ!」
「はあ?」
「わからんのか、勝負だ!」
「いや、言ってることはわかるけどな、どうして急に戦うながれになるんだよ」
「決まっているだろう!我が幾度となく交際を申し込んだというのに、それなのに…」
「まじかよ…」
最初に出会ったときには予想できなかった、おっさんの言葉だ。
あれだけ、次は正々堂々と戦いたいとか言っておきながら、こういう展開になるなんてな。
完全に私怨で戦いを挑まれてるじゃねえかよ。
それに対して、ネクラは俺にだけ聞こえるように言う。
「ちょっと暑苦しいからね」
その言葉に、確かにな…
これを見ると確かにそう思う。
俺が何かを言うまでもなく、ジンバと呼ばれたあのおっさんは話を続けている。
「ほら、今からでも我は可能だぞ。なんだ、何も言い返せないのか、坊主!」
それに対して、口を開いたのは俺ではなかった。
「ふへへへ、だったら、剣術大会で勝敗を決めるのはどうですか?」
「おお、それでいいぞ!」
「ま、仕方ないよな」
なんとなく、この展開の予想はついていたので、仕方ないというやつだ。
俺は面倒なことになったことに、捕まるべきじゃなかったなと心の中で悪態をつくのだった。




