177話
「弱かったな」
「そうですね」
「はあはあ、強い」
男がそう言いながら、地面に寝そべっている。
寝そべっていることからわかるように、男がやられていて、シバルは無傷だ。
ここまで弱いとは正直思っていなかった。
そう思ってしまうくらいには、本当に弱かった。
先ほどの少年でもあったが、何故か攻撃を防がれた後に距離を取ろうとする。
シバルは、そこをわかっているので、下がったタイミングで同じように距離をつめる。
そして木剣を振るうと、男は必死に防御をする。
急なことに対して、再度距離をとろうとしても、すぐにシバルが前につめることで、防御することしかできなくなる。
最初の一手でしか攻撃をできなかった男は、そのまま防戦をして、気づけばただ体力を消費して終わるという状況だった。
それは本人もわかっているのだろう。
「全然うまくいきませんでした」
「まあ、あんなわかりやすい戦い方をしていたらそうなるよな」
「でも、学んできたやり方があれだったので、どうしてもああなるんです」
「うーん、それにしてはシバルは違う戦い方だよな」
「それは、ボクは兄と一緒に幾度か稽古をしましたから」
途端にシバルのテンションが少し下がる。
俺はしまったと思いながらも「そ、そうか…」としか言えなかった。
まずいことになった。
そう思いつつ、次に何を言おうかと迷っていると、この微妙な雰囲気を察してくれたのか男が言う。
「モンスターは、そんなに簡単に見つかるものなんでしょうか?」
「そうだな…」
確かに言われてみれば、そうだった。
聖騎士がモンスターを狩っているとなると、そのモンスターを見つける人間が必要だ。
それも、この国の人たちが気づく前にやらないといけないということを考えると、かなり無理難題のような気がするが、聖騎士はそれをしている。
となると、あれだろうか…
うちにもというべきか、セイクリッドにも未来を視ることで、国をなんとかしていたミライがいるように、このレックスでもそういう存在がいるべきと考えるのが普通だろう。
そんなスキルを持っている人をかわして、俺たちがモンスターと戦う。
そんなことができるのだろうかと言われたら、難しいのかもしれない。
ただ、実践で戦わないと成長しないことは確かだ…
俺たちが教えてなんてことも確かにできるけれど、それは言われたことをやっているだけにすぎなくなってしまう。
一回戦って勝つ。
それならば、それでいいのだろうが、剣術大会で優勝ということになると、何度か勝利をつかまないといけないことが最初からわかっているので、自分でどう戦うのが強いのかを考えないといけないのだ。
まあ、異世界にこなかったら、こんなことを俺もやっていなかったので、いらないことを知れたなと少しは思っている。
いや、今はそんなことを考えても仕方ないな。
「とりあえず、町の外に出よう」
俺はそう言って、それに二人がついてくる。
すぐに質問をした。
「この町の近くには森とかないのか?」
「それなら、この田園地帯を抜けた場所にあります」
「まずは、そこに行くか」
そして、俺たちは森へと向かうことになった。
「まず、確認しておきたいのが、モンスターの戦い方ってわかるか?」
「モンスターですか?」
「ああ、戦ったことがないからといって、想像したことはあるだろ?」
「そうですね。どんなものなのかを書物や人づてに聞いただけで、実際にはわかりませんが、戦い方は考えたことがありますね」
「それで、その考え方では勝てたのか?」
「は、はい」
「でも、それはうまくいったと過程してということだけだよな」
「はい。確かに…」
「そうだと思った。俺たちと全く違うところはそこだな」
「どういうことですか?」
「失敗を生かすための動きってことだ」
そう、これはよくある勘違いだ。
よく、失敗をしないためにどうするのか?
それを考えるときに、よくあるのが失敗をしてしまう前に回避をすることを考えるというものだ。
今回の戦い方もそれだった。
でも、失敗をしないようにしたところで、それは失敗しないのかもしれない。
でも、それ以外のことで失敗をすればどうなる?
それも全て前もって考えるのか?
もし、それが失敗しないことには、改善の方法がわからない場合はどうする?
そうなった場合に、先にある程度失敗をするというのを考えるのはいい。
ただ、失敗をしたからダメというわけではなく、失敗はこうやって起こったから、次はこうやってすれば失敗をしにくくなるという試行錯誤を繰り返すやり方だ。
まあ、社畜時代に否が応でも身についたことなので、今更なんとも思わない。
失敗するかもなんてことは当たり前だ。
むしろ、うまくいくことの方がいざ本番になると多いのだ。
だから…
「うまくいかなかったら、反撃にあったら、そう考えて戦うのがいい。自分の剣が全員に通用するわけじゃないからな」
「それはそうですね」
そうして、俺の話しに納得してくれたところで、森へとついた。
さあ、モンスターがいるかはわからないが、いざ森の中へだな。




