175話
「はあはあ…」
「終わりなのか?」
「う、うるせえ」
少年はかなり疲れている様子だった。
まあ、それも仕方ないことだろう、毎回攻撃をしかけてくる。
それを俺が防いだりかわしたりする。
少年はそれが当たり前かのように距離を少しとる、再度剣を振ってくる。
かなり無駄な動作だということに気づいてほしい。
確かに、お互いにそういう動きをしているのであれば有効なものなのかもしれないけれど、今は全く戦い方を知らない相手と戦うことになっているのだ。
だったらやることはまず、相手の出方を見るのが普通だ。
確かに、俺の動きよりも速いのであれば、普通に圧倒することもできるだろう。
例えば、あの人馬一体のやつなんかであれば、それも可能だった。
ああいうやつには、俺のこんな何も習得していないけど、攻撃を外す攻撃といえばいいのだろうか、ヘンタイ眼によって魔力の流れが見えることがわかってから、相手の動きをしっかりと目で見るようになったことで、思い出したこの動きも通用しないけれど、目の前の少年のように、ただ、自分が思った強さだけを俺に向けられても困るということだ。
「なあ、もういいんじゃないのか?」
「う、うるせえんだよ!」
そして、少年は剣を上段に構える。
「これで、どうだ!」
そして、剣に魔法を纏わせる。
それだけで何をしようとしているのかがわかる。
奥義とかってやつだ。
「おまえ、それは!」
審判をしている男が止めようとするが、俺は言う。
「いいぜ、こいよ」
「うるせええええええ!」
そして少年は剣を振るう。
ただ、その木剣は俺に当たることはない。
それはなぜか…
俺が木の棒を投げていたからだ。
急に迫りくる木の棒に、少年は驚く。
「はあ?」
そして、その技をとくと、慌てて防いだのだ。
でも、そこで俺は一気に詰め寄ると、足払いをした。
「え…ぐは…」
そして、地面に少年は倒れる。
何が起こっているのかわかっていないような感じだ。
やっていることは単純なのに、ここまで完璧に引っかかられると、さすがにな…
地面から起き上がった少年は、俺のことを睨んでいる。
「な、なんで武器を投げやがるんだ、そんなこと反則だろ!」
「え?反則なのか?」
「そうだろ、剣術なら剣術で勝負をしろ!」
「へえ、じゃあ、逆に剣術ってなに?」
「そんなことは決まっている、剣術は剣を使って戦うことだ。それ以外になにがある!」
「そうなんだ。だったら、お前はどうしてその場から動くんだ?」
「はあ?動かないと攻撃を避けられないだろ!攻撃をうちこめないだろ!」
「そっか、今のでわからないのか…」
俺が言いたいことを今ので理解してくれるかもと思ったが、どうやら違ったらしい。
少年は怒っている。
でも、そんな姿を見ても、俺は何も言えない。
というか、こういうことを言いたくはないが、この剣術というのは妹からの受け売りだったりする。
最初に妹は剣道を自分の身を守るためにと通っていた。
ただ、そんなときにあの事件が起きた。
剣道では実際に何かが起こったときになんの意味もないということがわかってしまったのだ。
だから、妹は違う場所に通うことになった。
そこが、剣術を教えるものだった。
そして、俺は相手をさせられる。
何度もさせられているうちに、攻撃をいなすやり方はうまくなったが、攻めるやり方については妹の方がかなり上だった。
というのも、剣術というのは剣を使うものではないらしい。
それを最初に妹から聞いたときには俺は、思わず言ってしまった。
そんなものを剣術と言っていいのかと…
ただ、妹との手合わせで、それは確かに剣術は剣ではないということがわかった。
確かに、剣術というのは剣を使って致命傷や、とどめをさすという意味ではあっていた。
でも、そこまでで重要になってくるのは、主に体術的なことだ。
だから、今更ながらに小さいころに体術を習っていた俺にはあっていたのだろう。
剣を振るうだけでいいのなら、その場で振っていればいい。
でも、剣術として、相手に攻撃当てるためには、やることがある。
それは相手の態勢を崩すこと…
まあ、ようは隙をつくることだった。
そして、そんな隙を作るのに必要なものは、体術と決まっているらしい。
俺も受け売りだ。
剣を強く振るためにも、足の踏み込みかたから全てやり方があると聞いたときには、絶対に教わりたくないと思った。
だって、そのときの妹が本当にスパルタで、俺がそれに耐えられるかわからないくらいだったからな。
そうして、手合わせをやり続けた結果、妹の攻撃面では、人の急所を狙うやり方とか、あとはどのタイミングで攻撃すれば隙をつくれるとかそういうものだった。
まあ、今はそんな妹が何をしているのかは知らないが、そんな経験が役に立つとは思わなかったな。
しみじみそんなことを思っていると、ある程度落ち着いたのか、少年がまた俺に攻撃をしようと前に進みだしたところで、審判が前にでた。
「終わりだ!」
「そんな、まだやれる!」
「何を言ってる!終わりだ、審判の判断だぞ」
「くう…」
少年は悔しそうに木剣を握っている。
まあ、これで少しは反省してくれればいいのだけど、どうなるのやら…
俺はシバルの近くに行く。
「どうだった?」
「ただしの強さが、わかったような気がします」
「そうか」
「はい、ボクにもそれができるかわかりませんが、何か掴めそうです」
「それなら、さっきの言葉に意味はあったな」
「はい。この国にいたらわかりませんでしたよ」
「確かに、そんな感じがするな」
そう、戦いは終わり、全員が遠巻きに俺たちのことを見ているが、聞こえるか聞こえないかの声で悪口を言っているというのはわかる。
これでも手加減はちゃんとした。
ヘンタイスキルを使っていれば、たぶん木の棒を速攻で相手に投げて、それを防いだところを殴り飛ばすことを簡単にしていたはずだ。
でも、これでこの町で五番目に強いということは、町自体が少し心配になるレベルだ。
まあ、俺には関係ないことか…
そう思っていたのだが…
審判をしていた男がこちらに向かってくる。
そして、頭を下げた。
わけがわからず困惑していると、男は言う。
「お願いがある、稽古をつけてくれないか!」
「は?」
「ええええええ」
って、シバルの方が驚くのかよ。
そんなことを思いながらも、俺はこの状況に固まった。




