174話
「どうだ?何か、いいの思いついたか?」
「いえ、あんまりです」
「そうか…」
「はい、ただしの言ったことでなんとなくボク自身に何が足りないのかがわかったような気もするのですが、それに何が必要なのかがわからなくて…」
「まあ、それに関してはきっかけとかがあるだろ?」
「そうなんですかね…」
「たぶんな。だから、戦ってみればというか、実践でやり方を見つけるとかそういう感じになるかもな」
「そういうものなんですかね」
「なんとなくな」
俺はそんなことを言う。
まあ、無責任といえばそうかもしれないが実際、俺もやられたときでないと過去の自分にあったこととか思い出せていないからな。
何かきっかけがあればできるようになるというのは、あると思う。
「それじゃ、行くか」
「はい」
そして、俺たちは町の手前で馬からおりる。
理由として、馬に乗っているというのは旅の者という認識らしいし、警戒されるらしい。
ただ、馬から降りていると、それは簡単に逃げることや馬からの攻撃をすることも難しくなるからということらしい。
そういう単純なものなのかと思うが、確かにあのとき人馬一体なるものがいたことを考えると、馬は確かに重要な戦力と考えるのが普通だが…
俺が知っている馬をそこまで警戒するのは、なんとなく戦国時代なのではと思ってしまう。
そんな俺の考えがわかっているのかはわからないが、シバルと俺は町へと入った。
入ればすぐに何かが起きて…
ということはない。
というのも、町に入った。
はい、すぐに人が多くいるのじゃなくて、町に入ったのはよかったが、確かに建物がまばらにあるのはあるが、すぐに畑が見えた。
うーん、こういう建物はどこかで見たことがあるな。
そう、倉庫のような建物が乱立しており、そして畑が広がっている。
確かに、急に人が暮らしていそうな感じにはなってきたが、それだけで人はいない。
「なあ、これは本当に町に入ったのか?」
「はい、入りましたよ」
「それにしては、誰もいないみたいだが…」
「そうですね。それはもうお昼を過ぎたからですね」
「ああ、昼前までは畑を、昼からは剣の稽古をするんだったか?」
「はい、実際には好きなことをする時間とされていますが、基本的に強さで地位が変わってくるような国なので、稽古をする人が多いですね」
「なるほどな、それはそうなりそうだな」
「はい。ですので、今の時間は町の中央に集まっている場合が多いと思います」
そうして、歩いていく。
確かにとういうべきか、畑を歩く間は誰とも出会うということはなかった。
ただ、町の中心に近づくにつれて、声が聞こえてくる。
「おお、本当にさっきまでの静けさが嘘みたいだな」
「そうですね。いつもよりもすごいと思います」
「そういうものなのか?」
「はい」
俺は普段がどんな感じなのかがわからないので、なんとも言えないが、シバルの後ろにくっついていくような形で町の中心である、声がする方へと向かう。
そこでは、確かに老若男女が確かに稽古をしていた。
なんというか、圧巻だな。
そんなことを考えていると、一人の少年がこちらに気づいて近寄ってくる。
「あの、何かありましたか?」
「いえ、その剣術大会があるということで、それに出たくて戻ってまいりました」
「なるほど、そういうことですね。えっと、そちらの方は?」
シバルがすぐにそう答えて、次は俺が何をしに来たのかを聞かれる。
「えっと…」
シバルが何かを言うのを俺は手で制すると言う。
「俺も剣術大会に出るためさ」
決まったな。
それなりにかっこつけて言ったのだが、少年はキョトンとした顔をすると、すぐに笑い始めた。
「プ、くくく、あはははははは、何?面白い人だね」
俺は笑う少年に驚いていると、少年は言う。
「何を面白いことを言ってるんだい、そんな弱そうな見た目で」
「ああ?見た目でそんなことがわかるのか?」
「わかるよ。こう見えても、この町で五番目の強さだから」
そう少年は言う。
なるほどな。
だから、見た目で戦えそうにないであろう俺のことをバカにしたのだろう。
だったらやるしかないということか…
「それじゃあ、俺と決闘するか少年?」
「決闘?剣術試合って言うんですよ。やったことがない人はそんなこともわからないとは思いませんでしたよ。そちらの騎士の女性に教えてもらわなかったんですか?」
「いや、知らんな。そんなことを知らなくても、戦うってことは同じだろ?」
「プ、確かにそうかもしれませんね」
少年はバカにしたように言う。
そんな俺と少年のやりとりに、シバルははらはらとして見ている。
まあ、最初に突っかかってきたのはあちらの方なので、少年は剣術試合を受けないといけないことに変わりはない。
そんな少年はというと、腰に下げていた木剣をこちらに向けた。
「そんなに威勢がいいのなら、やりましょうか」
「おお、いいぞ」
そして、案の定同じように木剣を渡されそうになるが、俺は手を左右に振る。
「いや、そんな重いもんいらねえ」
「は?」
「うん?言ってることわからないか?」
「いやいや、わかっていて訳がわからないのです。木剣を使わないのなら、何を使うんですか?」
俺は、そこで近くに細い木を手にとった。
「俺はこれでいい」
「プ、くくく、そ、そんな細い弱弱しいものでいいのですか?」
「ああ、別に剣術は力が全てじゃないからな」
「プ、なんですか?負けたときの言い訳でそれを使う気ですか?」
「いや、別にそんなことはないけどな」
「まあ、いいでしょう。本当にそれでいいというのですね?」
「ああ、重い剣を使いたくないからな」
そんな俺の言葉に、周りの人たちが失笑するのが聞こえる。
でも、俺からすれば、自分専用の剣をもっていないという方がおかしいと思う…
この世界で騎士の人たちがもっている武器は、基本的に西洋剣と似ているが、それよりもさらに太さを増したものだ。
簡単にいえば、俺がもつには重い。
というか素人がもつには基本的には重い武器だ。
そんな振れるかもわからない武器を使うなんて自殺行為だ。
まあ、この世界の剣というのは魔法と組み合わせるのが普通だから、ああいうものが普通なのだろうけれど、それがそもそも間違いだ。
なんでって?
俺には魔法が使えないのだから、あんな太い剣でヒョロヒョロ振るうより、細くて軽い剣で素早く振るうのが普通だ。
それに、俺にはそれだけはすごいねと、妹に言われた剣術がある。
それを久しぶりに思い出したいからな。
だから、戦うというのなら望むところだよな。
俺と少年は向かいあった。
「では、勝敗はどう決める?」
「何がいい?」
「ああ、剣術大会と同じでいいぞ」
「プ、だそうだよ」
「それでは、はじめ」
その合図とともに、少年は俺に向かって突進してくる。
それも俺を甘く見ている少年は小細工もなにもない突きだ。
俺はその攻撃に対して前に突っ込んだ。
お互いの距離が縮まる。
そして、交錯したとき、少年の剣は俺にはあたらず、俺の木の棒はしっかりと少年の肩のあたりをついていた。
「なに…」
少年は驚いたように言うが、俺は思う。
いや、攻撃が単調だよな。
俺は呆れていたのだが、少年は諦めていないようだ。
「まだ、まだまだ!」
少し距離をとると再度今度は剣を振るってくる。
それに対して、俺は簡単に剣筋をずらした。
するとどうだろう、簡単に避けられる。
ただ、少年はさらに続けるのだった。




