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魔法使いになれなかった俺はヘンタイスキルを手に入れた  作者: 美海秋
ヘンタイと勇者たち

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168話

シバルの話しを聞いて、少し気まずくなりながらも、俺は馬車を運転していた。

あの後は特に何かが起こるということもなく、馬車は取り返せた。

本当にお金の力で従わせていただけなのだということがわかる。

だから、なんとかなったのはよかった。

でも、あんな話しを聞いたせいで、シバルに何かを言うというのが難しくなった。

それでも時間は過ぎていく。

そこで思い出すのは、あの嫌な男のことだった。

それを考えていたときに、ヤミが俺の隣へとやってきた。


「ふう、疲れたのか、みんな寝てしもうたのじゃ」

「そうなのか?」

「そうじゃ。一日でいろいろ回ったのじゃからな」

「確かにな」


それに現在の時刻は夜になったばかりだ。

外は暗くなり始めて、普通であればそろそろ野宿の準備を始めるのだけれど、今日に限っていえば、もう少し距離をかせぎたかったので、それまでもう少しかかりそうだ。


「それで、ヤミは寝なくても大丈夫なのか?」

「そうじゃな。おぬしが一人で暇そうにしておったからの、それをからかうためにきただけじゃ」

「そういうもんか?」

「そういうものじゃ」


そう言いながらも、ヤミは隣で座っている。

馬車に揺られるこの時間が沈黙もいいものにしてくれる。

ただ、ヤミはどこかつまらなそうだ。


「のう、おぬし」

「なんだ?」

「騎士の娘と喧嘩でもしたのか?」

「いや、そういうわけじゃねえよ」

「なら、どうしてよそよそしくなるのじゃ?」

「いろいろあるんだよ」

「ま、まさかおぬし…」

「なんだ?」


そう思ってヤミの方を見ると、顔を真っ赤にしていた。

絶対に何かを勘違いしているな…


「絶対にそういうことじゃないからな」

「なんじゃと、わらわが考えていることがわかるのか?」

「当たり前だろ、顔がわかりやすすぎるんだ」

「なんじゃと!」


そう言いながらも、足をぺしっと叩かれる。


「それじゃあ、何があったのじゃ?」

「それは…」

「言えないことなのかの?」

「そうだな。あの兄のことだからな」

「なるほどの」


そこで、ヤミは納得する。

ヤミも二刀の剣を持った男がシバルの兄だということをわかって聞いてくるが…

さすがにあの話しをここでするわけにもいかないので、何も言えない。

だから、ヤミが納得してくれて安心したのだけれど、次の言葉で俺は動揺する。


「それじゃあの、おぬしにはあの黒い炎を使う勇者について教えてもらおうかの」

「ヤミ、お前…」

「肩車じゃったかの?あれをしてもらっておったわらわだけは、あのときのおぬしの違和感に気が付いておったからの」

「まじかよ…それは肩車をしたのは失敗だったか?」

「おぬしなあ、そういうことよりも早く教えるのじゃ」


そう言うヤミの瞳は、俺のことを真っ直ぐにみていた。


「いや、それはだな…」


それに対して、俺はなんとか誤魔化そうとしていたが、それでもヤミの瞳は真っ直ぐに俺を見ている。

仕方ないということなのだろう。

ここまできてしまえば、話すしかない。

俺とあいつの関係を…

それで、俺自身も少しでもあいつのことをなんとかできるかもしれないからな。


「まあ、暇つぶしにでも聞いてくれ」

「そうじゃな、そうさせてもおうかの」


俺は前を見据えると話しを始める。


「それは、普通の日常を送っていたはずの日々のとき…」



俺はどこにでもいる高校生だった。

特に何かをやることもなく、日々を過ごすだけ…

多少違うことは、体系維持のためにトレーニングを欠かさなかったことくらいだろう。

ただ、どうしてトレーニングがいつも同じ内容で、さらにはどうしてやっているのかをそのときには完全に忘れていた。

そんな感じで、何も変わり映えのしない日常だった。


「お兄ちゃん、一緒に帰ろ」

「ああ、いいぞ」

「それならよかった」


変わり映えはしない。

いつも通り、妹と一緒に帰る日々だ。

といっても妹は俺とは違って、社交的なので俺と一緒に帰るというのはよくわからないが、本人曰く、変な男の人に絡まれるのも面倒だから、それだったらお兄ちゃんと一緒に帰るとかそんな感じだ。

いつも通り一緒に帰っていると妹が言う。


「ねえ、お兄ちゃんはどうしていつも一人なの?」

「別に一人でいてもおかしくはないだろ?」

「そうなんだけど、どうしてなのかなって思って」

「なんとなくだ」


俺はそう言う。

そう、特に理由なんかはなかったはずだ。

友達が欲しいとも思っていなかったから…

だが…

いや、だからこそそいつは突然やってきた。

帰っている途中だった。

上下黒の服装で、普通であればどこにでもいるような存在。

ただ、すれ違った瞬間に背筋に悪寒が走るほどの何かを感じた。

すぐさま振り向いた俺に、隣にいた妹が怪訝な表情を見せる。


「どうかしたの?」

「いや、ちょっと気になっただけだ」

「そう?それにしてはすごい汗とかだけど…」


そう言われて、頭を触ると確かに一瞬で汗がでていた。

何かがヤバい存在。

そのことに気づいたのは、次の日だった。

俺はあの男のことが気になった。

だからこそ、次の日も同じ時間帯を歩いていた。

まあ、学生ということもあり、同じ時間に歩いていたとしても何も怪しいことがないということが俺への救いだ。

そして、上下黒の男は今日も歩いてきた。

それも、同じ時間にだ。

これはおかしい。

俺はそう思って、思わず立ち止まった。


「お兄ちゃん?」


不安がる妹に俺ははっとする。

今ここにいるのは俺だけじゃない、だから何をそんなに気になるのだろうか?

何かこのままだと嫌な予感がする。

そんなことを考えながらも、立ち止まった俺たちの横を黒い服の男は通り過ぎていくはずだった。

ただ、男は下を向ていた顔をそのときあげた。

その顔はそう、気持ちが悪いくらいの笑顔がはりついていた。


「ひっ…」


妹が悲鳴を上げるのは無理もない。

俺も、身構えていなければ、同じようになっていただろう。

でも、これで違和感の正体がわかった。

この男のとってつけたような笑顔を見て、理解した。

ただ、理解した途端に男は右手から何かを取り出した。

俺は身構える。

小さな瓶のように入ったそれを男は投げる。

俺はとっさによけていた。


「ふひ、なんだあ?急に立ち止まったから何かと思ったら、今のを避けるのか?」

「なんだ、お前は?」

「あー?なんだ?対人戦闘は嫌いか?」

「何を言っている?」

「対人戦闘は嫌いなのかって聞いてるんだよ、俺は」


そう男は言うとさらに瓶を投げる。

アスファルトに当たってそれは割れるが、瓶からは入っていた液体がこぼれた。

異様な雰囲気で、妹はすでに体をがくがくと震えさせているが、俺は冷静に相手を見ていた。

瓶が落ちて、液体が出たが、匂いからわかる。

ガソリンか…

嫌な予感しかしない。

俺は妹にそいつの興味が向かないようにするために、前にでた。

男はそれを見て、楽しそうだ。


「なんだ?なんだ?今の攻撃でも前に来るんだな」

「だったらなんだ?」

「もっと数を増やす!」


男はそう言って、瓶を投げる。

俺はもっていた通学カバンでそれをなんとか防いだ。

ただ、カバンにはガソリンがつく。

それを確認した男はどこからかだしたジッポライターに火をつけた。

俺はヤバいと思って、カバンを投げる。

男はお構いなしにカバンに向かって火を投げた。

少しの時間の後、火に包まれるカバン。

それを見ても男は不気味に笑うばかりで、本当に楽しそうだ。


「楽しいね、対人戦闘って」

「俺は楽しくねえよ」

「そうなの?」


男は疑問を口にしながらも、さらに瓶を投げてくる。

こいつ、どれだけ持ってるんだ?

わけもわからないまま俺はその攻撃を避けるしかなかった。


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