160話
「ただしたち大丈夫かしら…」
「わからないけれど、ただしたちを信じるしかないでしょう?」
「そうだけどね。ちょっと不安なんだよね」
「わたくしもですね」
バーバルと二人でそんな会話をする。
ミライには、スキルでこの後に何が起こるのかを逐一確認してもらっている。
このまま何も起こらない。
そんなことになれば、一番いいのかもしれない。
でも、そうならないことはこれまでのことでわかっていた。
それでも、突拍子もないことが起こるのが、冒険を行うということでもあるので、こういうことが起こるよね。
「どうして未来が読めないのよ」
「ミライ?ポンコツになってない?」
「アイラ、私のことをポンコツと言わないでください」
「だって、ポンコツでしょ?」
「確かに、私のヨチスキルが当たることの方が少なくなっちゃってるけどね」
「ミライ本人だって、認めてるじゃない?」
「だって。だって私にはこれくらいしかないでしょ、だからね。これくらいはしっかりとやりたかったの」
「でも、できてないんじゃん」
「アイラー、冷静にそういうことを言わないでよ」
そうなんだけどね。
この状況だとそう言わないとやっていけないのよ。
私はそう思いながら周りを見る。
私たちが倒したといえばいいのか、拘束した人たちはざっと見ても、十数人はいるがそれと同じか、さらに多いくらいの人たちが再度ここに向かって来た。
ミライが視た未来では、来るのも数人だという話しだった。
それなのに、今いるのはその倍以上だ。
それに…
「勇者も一緒にいるなんてね」
「なんだ?あのときの気の強い女じゃないか、これは僕にもつきが回ってきたのかな」
「どういう意味よ」
「お金で手に入らなかったものは、僕は力で手に入れるものだと思っていてね。それができそうだ」
「へえ、私がそんなに軽い女だと思うの?」
「いや、思わないけど。それでも僕にはお金がある。これがあれば、僕のいいなりにできるやつが増える。そして、そいつらを使うことで、僕の気に入ったやつを落としてみせるのさ」
「何?ということは、お金で人を増やさないとあなたは何もできないわけ?」
「いや、そういうわけじゃないんだよ。ただね。君だけをなんとかするにしても、一対一にするためには、僕にも協力者たちが必要っていうだけの話しなんだよね」
「そうなんだ」
この勇者はどういうわけなのかわからないけれど、私のことを気に入ってる。
だから、今の挑発にものるものだと思っていたけれど、そういうわけではないらしい。
本当に、嫌な相手だと思う。
勇者って、あれじゃないの、もうちょっとアホっぽい感じじゃないの?
ちょっと知的な勇者って、あんまり想像ができてないんだけど…
そんなことを考えているうちにも勇者たちは、余裕の笑みでこちらに近づいてくる。
「戦うしかないってことね」
「僕のものになる気はないのか?」
「おあいにく様、私はぽっと出の人についていく軽い女の子じゃないの」
「そうよ、アイラには心に決めた人がいるものね」
「ちょっと、バーバルそういうことは言わないでよ」
「ええ、いいじゃない」
バーバルがそう言いながら笑う。
その姿は最初に出会ったときのふてぶてしさが少しずつ出てきているように感じた。
いつも魔法放ってるときはあんな感じだもんね。
だから、ちょっとずつ本当の自分ってやつに近づいていってるのかな?
ただ、そんな悠長なことを考えている場合ではなかった。
それは、勇者の男の顔が酷く歪んでいたから…
「くそくそくそ、なんでだ、どうしてだ?お金があればほしいものを買えて、それで僕もお前たちのようなものたちもお互いにほしいものがもらえるんじゃないのか!」
「急に何?」
「うるさい、うるさい、僕はただほしいものがあるだけなんだ。それをお金で買えないのは、手に入れられないのはおかしいんだ!」
「おかしいのか?だったら、それは自分の力で手に入れるのがいいんじゃないのか?」
「え?」
面倒くさいのでお金の勇者とでも呼ぶけれど、そいつがおかしくなったタイミングでいつもの勇者がやってきた。
ただ、立ち位置は金の勇者の隣ではなく、私たちの方だ。
それでも、これまでのことがあるので、私は少し距離をとる。
「いや、気持ちはわかるけどな。すぐ近くにいるのに避けられれるのは、なんか嫌だな」
「仕方ないでしょ、私たちはあなたの存在は許したけど、これまでの行いについてはなかったことにはできないんだからね」
「その通りだな。だからこそ、少しは挽回させてくれよ」
「期待はしないでおくわね」
そんなやり取りをしながらも、私たちは武器を構える。
それを見た金の勇者は持っているものを構える。
「本当に、目障りのやつがまた増えたのか!」
その言葉とともに、ズドンという音。
そして、発射される弾丸。
見えない。
これをただしは避けたの!
わからない攻撃に対して、それはキンという音とともに何かに弾かれる。
「ちい、なんで僕の攻撃を簡単に防げるんだよ!」
「いや、俺のは師匠と違ってたまたまだ」
「やるじゃない」
「いや、だからたまたまだっての、そんなことよりも防御をしっかりできようにしておいたほうがいい。普通に防御魔法で、一撃は確実に防げるからな」
「わかったわよ。我の前に絶対に通さない聖なる壁を作りたまえ、ホーリーバリア」
私は魔法を発動する。
これで見えない攻撃が防げるというのだろうか?
ただ、防御魔法を使うことで、金の勇者は怒り狂う。
「僕のものになれと言っているだろうが!」
ダン、ダンと今度は複数の音がなる。
それは、私のバリアの同じ場所に傷をつける。
後数発もらえば、バリアが破られてしまう感じがする。
このままじゃまずいってことはわかる。
あの武器がどんなものなのかがわからないままでは戦っても簡単に勝てるとは思わない。
よかったことは、あの武器を使えるのが、勇者一人だけのところだろう。
でも、私のバリアが破られれば、他の金の勇者の仲間がこちらに向かってくるということはわかっている。
そう思っていたら、金の勇者は言う。
「勇者様!、そろそろ破壊してもらわないと、こちらも仕事ができませんよ」
「うるせえ、わかってるんだよ。僕はな、僕はな!」
そんな言葉をいながらも、金の勇者は再度撃つ。
さすがに破られる。
そう思っていたときに、再度人影が…
ただ、それは思ってもみない人たちの登場だった。
「あなたは…」
「…」
そこに現れたのは私たちが最初に戦ったラグナロクというメンバーの一人、ジークだった。
そして、もう一人は、仮面をかぶった、見るからに女性。
ただ、そのたたずまいは、私でもかなり強いというのがわかってしまうほどだった。
どういうことなの?
ただしは?
私の疑問が解決することはなく、戦いはさらに混沌とかしたのだった。




