152話
「お前、まさか宗次か?」
「あん?どうして僕の名前を?」
「いや、ちょっとな…」
顔を合わせれば知らないやつ。
そう思っていたのに、現実は違っていた。
どういうわけか、目の前にいる男は俺が知っているやつだった。
こいつは確か俺が知っているやつの中ではかなり嫌なやつだった。
家がお金をもっているということもあってか、手に入るようなものはなんでもお金で買う。
完全に成金のようなやつで、もっているものもかなり多かった。
それに、大学を辞めるきっかけになったのもこいつなので、嫌な思い出しかない。
だというのに、そいつは俺のことを知らない。
また、普通であれば俺が知っているこいつは、同じ年齢…
ということは、三十手前だ。
それなのに、見た目はそれよりも上に見えてしまう。
急に名前を呼ばれて、俺のことをジロジロと宗次は見たが、誰かわからないのだろう。
まあ、それはそうだ、宗次は金をもっていた、だからこそ、俺のような何もない見た目の人間を覚えているはずがないからだ。
すぐに俺から興味を失うと、宗次は他のパーティーメンバーに目を向ける。
「おいおい、こんなに可愛い子たちを仲間にしているのか?僕にくれよ」
そんな横暴な言いぐさに、さすがに俺たちはドン引きだった。
「嫌だけど…」
すぐにアイラがそう言うが、宗次は笑う。
「なんだ?金でもあればいいのか?」
そう言いながら、宗次は手から金貨を取り出す。
うん?
今、何もないところからお金が出たような?
そんな俺の疑問を裏付けるかのように、宗次の手からはさらに金貨が落ちる。
「まじかよ…」
「ははは、どうだ?この金を自由に使わせてやるから、僕のパーティーにこないか?」
「だから、嫌よ」
「なんだ、他のやつはどうだ?」
そう言うが、他のみんなもさすがに首を振る。
急展開すぎるし、会ってすぐに金を使って相手を欲しがるなんてやつに、まともなやつがいないというのは、どの世界でも共通認識としてあるのだろう。
ただ、思い通りにいかない。
それに対して、宗次は怒る。
俺は、すぐにアイラを押し倒していた。
「キン…」
「ちっ、今のを避けるってことは、この武器のことは知っていたな?」
「まあ、そこのじじいに聞いたからな」
「は、僕の武器を作らなかったじじいのことか!」
そう、この場に来たというところから、察してわかっていた。
この男は、ゲンタに武器を作れと言ってきたやつだ。
そのことは、ゲンタが勇者である宗次の顔を見て、強張った瞬間にはわかっていた。
それにしても、本当に銃を持っているとはな。
というか、どこから出したんだよ…
「は、なんだ?僕のスキルが気になるって感じなのか?」
「まあな」
「別に教えたところで、対策などしようがないしな。教えておいてやるよ。僕がもっているスキルは、ソウゾウだ」
「ソウゾウだと…」
「ああ、そうだ」
そのスキルは、俺たちがセイクリッドで遭遇したセコと同じものだ。
でも、さっきまでのやっていることを見ると、こいつの持っている方のソウゾウスキルは、創造で間違いないよな。
普通に金を出したり、銃をどこからか出したりと、完全にチートしかもっていないようなスキルだ。
セコが使っていた、相手や自分を想像するだけのものではなくて、本当になんでも作り出してしまうスキル。
それは、驚きしかなかった。
ただ、疑問があった。
それは、銃の存在だ。
ソウゾウスキルで作れるのであれば、別にゲンタに作ってもらうことをしなくても、宗次が作ればいいだけのように思う。
そんな俺の疑問には、調子をよくしたのか、宗次は言う。
「なんだ?どうして、そのじじいに、武器を作るのかを頼んだのか、気になっているのか?」
「まあな、好きなものをつくれるなら、別に自分で作ればいいだけじゃないのか?」
「うーん、確かに、お前が言っていることはよくわかる。だけどな、この武器には弓矢であれば矢を、こいつには弾をこめる必要があるからな。僕がもっているスキルであれば、すぐに装填できるが、それは僕のスキルがあってこそだからな。スキルがないやつには、僕と同じようにこいつを使えないからな」
「そうかよ、だからってすぐに撃つのはどうかと思うけどな」
「はは、確かにそうかもな。ただ、僕は欲しいものはどうしても欲しくなるたちでな」
「ちっ…ここでも性格は変わらないのかよ…」
「なんだ?何か言ったか?」
「別に、何も…」
「まあ、いいがよ」
そう宗次は言葉にしながらも、銃を肩でポンポンともてあそんでいる。
また戦闘が始まるのか?
俺はそう思いながらも、身構えていると、宗次は急に両手を広げる。
「ふ…まあ、今日は違うことをやりにきたところだからな、まあ見逃してやるよ」
「どういう意味だ?」
「とりあえず、今日はやらないといけないことがあるから、ここからいなくなるってだけの話だ」
「そうかよ」
「まあ、それまでにそこにいる女たちをどうするのかを考えておいてくれよ」
そう言葉にすると、宗次は去っていく。
俺はただ、勇者ってこんなやつしかいないのかと愕然とするばかりだった。
それでもやらないといけないことをやるか…
「ねえ、いつまでそうしてるのよ」
「うん?」
俺はそのときに気づいた。
弾をかわすためにも、アイラを押し倒していたことに…
「ああ、す、すまん」
「ま、まあ、いいけど」
お互いに顔を赤くしながらも俺たちはゆっくり立ち上がると、この微妙な雰囲気を感じながらも、集まるのだった。




