150話
「それで、さっきの他の勇者に出会ったというのは?」
「ああ、それですね。実は先日ギルドに来た人がいまして、その人に手合わせをお願いされましてね」
「ほうほう…」
ギルドの後ろにある、部屋に通された俺たちは話しを初めていた。
ここにいるのは、パーティーメンバーとしては、俺とシバルとヤミだ。
簡単に言えば、頭を使えるというべきか、そういう人たちだ。
勇者の方は、騎士の人が同席している。
「ということは、そのギルドで出会った新人と思われる冒険者たちと手合わせをしたってことなのかな?」
「そうですね」
「ちなみに勝敗は?」
「惨敗でしたね。普通にかなり強かったです」
「そうなのか…」
俺に負けたとはいえ、勇者はそれなりの強さをもっている。
それが惨敗と言うということは、かなりの強さだということはわかる。
そんな強いやつが勇者だということなのだろうか?
俺がそう思っていると、勇者は続ける。
「実はそれが勇者ではなかったのです」
「というと?」
「勇者は、その後ろにいた魔法使いだったのです」
「まじかよ…」
俺はその言葉に驚く。
だって、そうだろう。
魔法使いの勇者だというのだから…
それについては俺がなりたかった存在であって、他のやつがなっていい存在ではないのだ。
言っていることについては理不尽なのかもしれないが、俺はそう思っている。
まあ、今となっては魔力がないので無理だということは百も承知なのだが…
でも、そうなると勇者じゃない男が、この勇者に勝ったことになる。
俺はすぐにその男の特徴について聞いてみる。
「なあ、その勇者と、一緒にいたやつの特徴はどんな感じだったんだ?」
「それは、勇者については戦闘について、楽しそうに笑うようなやつだったな」
「どういう意味だ?」
「勇者を見ていて思ったことですが、あれはかなりの狂った人間だと思いました」
「どういう意味で、それを言っているんだ?」
「すべてを楽しそうにしているといえばいいのでしょうか…ずっと笑っている人でした」
「そんなやつがいるのかよ」
「はい、私もかなり驚きましたが、あれは狂ったように笑っていました」
「狂ったように?」
「はい、ずっと笑っているのです、口元が…」
「ああ、あれを勇者と呼んでいいのかわからないのものだが、あれは怖いやつだったな」
「そうなのか…」
ずっと口元が笑っている、その言葉を聞いて、一瞬頭の中に思いついたやつがいたような気もするが、すぐに頭を振ってそんなことはないと思いなおす。
それに、まだもう一人のことも聞いていないからな。
「それで、もう一人のやつはどんなやつなんだ?」
「ああ、俺と戦ったやつだな。二刀流のやつだ」
「二刀流?」
知らないやつだな。
俺はそう思っていたけれど、チラッとシバルの顔を見ると、その顔は驚きにつつまれていた。
「どうかしたのか?」
「いえ、そのちょっと…」
「シバルの知り合いなのか?」
「それは、その…はい」
まじかよ…
シバルの知り合いということは、もしかしなくても聖騎士としての元知り合いということなのだろう。
セイクリッドで会った、あの人馬一体のやつもそうだったので、何かが起こる前兆だということなのだろうか?
今のシバルを見ていると、あまりこれ以上のことを聞いていいのかがわからないので、俺は何も言うことはなくヤミを見る。
ヤミもそれをわかっていたのか、うなずく。
とりあえずは、今わかったことだけを整理するところからだな。
「結局は勇者と一緒にいるやつも勇者と同じくらい強いやつってことでいいんだよな」
「ああ、俺が強いって言いきれるわけじゃないですが、普通の冒険者よりも確実に強いことは確かですね」
「本当に、厄介な相手みたいだな」
俺たちは、魔法使いの勇者と、その相方について、そう結論付ける。
これで、聞きたいことは一通り終わったな。
ここから、オンスフルについて聞いておこう。
「なあ、今のこの国は大丈夫なのか?」
「どういう意味ですか?」
「いや、セイクリッドで少しあったからな。この国でも、そういうことがあるのかと思ってな」
「そうですね。気になることは今のところありませんね」
「そうか…」
勇者が気になるところがないということは、ないのだろうか?
いや、わからない。
おかしいことでも、それが普通に行われている場合には、普通だと思い込んでしまうところがあるからな。
町でも見て回るのがいいだろう。
後は、どうせだから武器屋に行くのもいいしな。
「まずは、町でも少し見るかな」
「そうですね。ただしさんの指名手配の件は、俺の方で言っておきましたので、どこへ行っても大丈夫だと思います」
「それはよかったよ」
「まあ、ただしさんの顔を、ちゃんと書いた手配書がなくてうろ覚えだったので、あまり似てませんでしたけどね」
「確かにな…」
俺は今更ながらに、その手配書を思い出していた。
あれは、異世界から来るとよく起こることとは、物語でも知ってはいたが、それでも驚きはあったからな。
今となっては思い出のようなものだ。
しみじみとそう思っていると、勇者はそういえばと口にする。
「美味しい料理屋ができたみたいですよ」
「まじかよ、それは気になるな」
「料理じゃと、それは気になるの」
俺とヤミがそれについて食い気味に気になったのとは違い、シバルはゆっくりと立ち上がる。
少しの嫌な予感を感じながらも、俺たちはギルドの中にいるみんなと合流するべく、部屋を後にした。




