147話
セイクリッドでの騒動も落ち着き、ヘンタイ様と呼ばれる人が少し認知され始めたころ、俺たちが最初にいたオンスフルではあることが起きていた。
「雷よ、我の武器にその力を宿せ、サンダーウエポン」
「おお、雷の剣か、いいじゃないか、こいよ」
「うおおおおおおお」
「おらあ!」
オンスフルにて、修行を行っていた勇者たちは、数々の依頼をこなしていた。
少しずつ前よりも強くなったことを実感していたとき、出会ったのが、二人の男だった。
一人は剣を二本もつ、いわゆる二刀流というやつで、もう一人は手ぶらだ。
ギルドに所属するために、少し腕試しをしてみたいということで、相手をすることになったのだが、こんなに強いやつらだとは誰も思わなかっただろう。
ギルドのランクも青と、俺たちの赤よりも下だ。
それなのに、二刀の剣を抜いたときから、その強さを感じたが、最低でもシルバー以上の強さがあるだろう。
最初はただ、腕試しということだったのに、今ではただ勇者であるこちら側が遊ばれる事態となっている。
雷を纏った剣ですら、男は二刀の剣で簡単に受け止める。
「なんだよ、全然攻撃として弱いな」
「なんだと…」
「攻撃ってやつを見せてやるよ」
男はそう口にすると、剣を弾き、こちらの態勢を崩させる。
すぐに両手の剣を腰の位置まで引き絞るとそれを口にする。
「双剣、一の型、ダブルスラッシュ」
双剣は、ちょうど腰辺りを切り裂く。
攻撃によって、吹き飛ぶ。
「ぐ…」
なんとか踏みとどまったが、かなりの勢いだった。
そして、吹き飛んだことからわかるように、双剣はこちらを斬る目的ではふるっていなかったようだ。
「今ので気を失わなかったことだけは褒めてやるよ」
「なんだと…」
「勇者様」
「次は私が!」
俺のことを心配そうに、覗き込む修道女の女性と、次に相手をするためにと、前に出た騎士の女性だったが、すぐに声を張り上げる。
「やめろ!負けでいい」
「へえ…」
俺が潔く負けを認めたのに対して、男は感心したように声をだす。
しょうがない。
勇者として研鑽をそれなりに積むようになって、日が浅い。
それまでは、よくないやり方でのし上がっていただけなのだから、これが実力だということだろう。
でも、気になることはあった。
「これだけの実力があって、ここに何をしに来たんだ?」
「そうだな。妹に会いに来たんだよ。ここにいるって聞いたからな」
「妹だと…」
「そうだ、まあ、なかなか楽しめたぞ」
男はそう言葉にすると、その場を去って行く。
ただ嵐のような男が去っていたことを見ていた。
※
「いや、どうしてここに来たんだよ」
「それはわかってることでしょ」
「まあ、なんとなくな」
あまり言いたくないが、俺たちはオンスフルに来ていた。
ここに来るのは、あまりいい思い出がないのだから、行きたくなかったというのが、正直なところだった。
それでも、どうしてここに来たのかというのは調べることがあったからだ。
本当であれば、セイクリッドなどに行く前に、調べることができていれば、よかったのだけれど、結局はこのタイミングになってしまった。
仕方ないといえば、そうなのかもしれないが…
「また、あの勇者と出会うことを考えたらな」
「そんなこと言っても、ヘンタイな恰好で、ただしがやっつけてくれてたでしょ」
「確かにそれはそうなのかもしれないけどな…」
俺のことを、師匠とか言っていたような気もするので、そういうところも含めて、あまり会いたくないというのが本音だった。
それに会ったところで、どういう顔をすればいいのかもわからない。
ただ、どういう顔をすればいいのかわからないというのは、今も同じだった。
「今のこの状況はどうなってるんだ?」
「それに関しては、あなたがまいた種でしょ…」
「そうなのかもしれないけどな」
どこで選択を間違えたのか、わからない。
なんで、そう思えるのかというのは、俺たちのパーティーメンバーに関係している。
あれから、セイクリッドの復興をある程度手伝い終えた俺たちは、次に行く場所について、決めるために集まったりしていた。
そこで出たのが、最初にいた場所で起こったモンスター進行。
そう、ゲートから生まれたモンスターたちによる進行だったのだが、それが起きるには、勇者の存在が必要不可欠だ。
ただ、あの勇者がいるじゃないのか?
普通であれば、そう考えるかもしれないが、実はそうではない。
あの後、勇者についてわかっていることをセコから聞いたところ、どうやら勇者の試練として、最初に起こるモンスター進行については、その勇者の実力に伴って、モンスターの強さが変わってくるらしい。
それは、まあ考えれば当たり前ではある。
勇者が召喚されたというのに、最初の試練で、速攻死亡…
なんてことが起こってしまえば、勇者召喚など意味のないことになってしまうからだ。
それで、どうしてあの勇者ではないのかというと、モンスターが強かったからだ。
確かにゴブリンではあったが、その数はかなり多かったし、その時にはすでにラグナロクなる組織のメンバーであるジークなんかとも戦ったことから、わかるが、あのときの勇者では、あの数のゴブリンは倒せるはずない。
それくらいには強かった。
だから、考えられることは一つだ。
他の勇者の試練として、あのゴブリンたちがゲートから出てきたのではないのかということだ。
でも、そこで疑問なのは、その勇者はどこに行ってしまったのかだろう。
普通に考えれば、ラグナロクのメンバーになったというのが、一番あり得そうなことではあるが、それなら最初にジークたちと一緒に戦って、戦いというものを知るのが先決だろう。
でも、その場にはいなかったことを考えると、どこかに行った。
その痕跡を少しでも、見つけるという意味でも、俺たちはオンスフルに向かっていた。
「気になるところは、俺が指名手配されてるのがどうなったかだな」
「あー、あれね」
「そんなことがあったんだ」
「まあ、人生いろいろあるってことだな」
「そんなに長くは、まだ生きてないでしょ」
「おま、それは…」
転生してるから、お前らよりは長いと言いたいが、それを言うのも何か違うと思った俺は、何も言わない。
とりあえずはだ。
今のこの状況を考える。
なんとか、セイクリッドから、勇者のことを調べるという意味で、オンスフルに向かった俺たちは、シバルが運転する馬車によって向かっていた。
ただ、そこにミライがいることがこれまでと違うことだろうか。
なんでこうなったのか、それは俺の言ったことに関係していた。
未来を決めるのは、ミライ自信の行動次第だろ。
そんなことを、少し相談されたときに言ったのだ。
するとだ、だったら私のやりたいようにすると言われて、気づけば俺たちと今は一緒にいることになった。
まあ、それがミライのやりたいことであるのなら、しょうがないのかもしれないが、アイラがミライの方を見るのが、少し怖いと思ってしまうのは仕方ないことだと思ってしまう。
こんなの、ハーレム系の主人公じゃないか…
俺は、そんなことを考えながらも、馬車に揺られるのだった。




