145話
セコは光に包まれると、力なく地面に倒れた。
俺は起き上がる。
先ほどまでのドラキュラとしての姿ではなく、最初に見た普通の姿へとセコは姿が戻っていた。
「何をやったんだ?」
俺は光が収まると、二人に聞いた。
「この国に伝わる伝説の魔法っていうやつ」
「そういうやつか…でも、どうしてできるってわかったんだ?」
「まあ、それは後で教えてあげる」
「そうか…それで、どうするんだ?」
「最後だしね、話くらいは先にしておこうかなって」
そう言いながら、ミライが視線を向けるのは、セコの方だ。
アイラもミライの後ろで、セコのことを見ている。
力なく横たわったセコは、息も絶え絶えだ。
このまま時間がたてば魔石になるだろう。
でも、疑問があった。
どうして、セコは人の姿になっているのかというところだ。
それをなんとなくわかっていたのか、ミライはセコに言う。
「本当の魔族にはなれなかった感じね」
「ふ、僕は僕だ。魔族になれなかったわけじゃない」
「そうなんだ」
「そうだ。魔族ではない。ただの僕が、この国を、世界を治めるはずだったのだ」
「だったら、スキルの使い方を間違ったんじゃない」
「そんなわけ、あるはずないだろう」
「ううん、セコ、あなたは間違ってるよ」
セコのその言葉に反論したのは、アイラだった。
首につけていた何かをアイラは外す。
「こんな卑怯な手しか使わなかったんだから…」
「卑怯な手、そうだな。ただ、それを破れたのは、アイラ君だけだけだったんだけどな」
「本当に?」
「ふ、そうだ。もういいだろ、殺せ」
セコはそう言葉にしながらも、力なく上を見ている。
後はこいつを殺せば、全てが終わるのだろう。
でも、それでいいのか?
俺はそんなことを思っていた。
ただ、それを決めるのは俺じゃない
セイクリッドのことなのだからだ。
そう思っていると、先ほどの戦いで槍を投げていた女性がセコの上に立つ。
「じゃあ、うちがやる」
その言葉とともに、手には槍を持っている。
その槍で貫けば、殺すことができるだろう。
「早くやれ…」
セコはそう口にして、女性が槍を上に掲げる。
ただ、その振り上げた槍をアイラが掴む。
「何をしやがる。こんなやつ生かしておいてやる意味がないだろうが…」
「確かにそうかもしれないけど、でも殺すのなんか簡単でしょ?」
「はあ?今までの戦いを見ていたのか?殺すのがそんなに簡単にできるのなら、さっさと殺っていた。でもできないから、やるのなら今だろ!」
「そうね…でも、私がやることができれば、セコのことは抑え込むことができると思うけど」
「はあ?じゃあ、言ってみろ」
「そうね、まずはただし!」
「お、おう…」
急に名前を呼ばれて、さすがに驚きを隠せない。
というか、こんな気まずいタイミングで、名前を呼ばないでほしい。
注目を集めてしまった俺は、何を言っていいのかおろおろとしそうになったところで、アイラはなぜか女性ものの下着を取り出す。
それは、俺から奪い取ったものだ。
そんなものでどうするというのだろうか…
俺は疑問に思っていると、それは周りにいた人も同じだった。
「おいおい、そんなものでどうしようっていうんだ?そこのヘンタイに渡したところで、何かができるのか?」
「いや、確かに俺はパンツを被ったりしてるが、それは好きでやってるわけじゃ…」
「でも、これがあるおかげで、セコには面白いことができるわよ」
「俺のことは無視ですか…」
アイラと女性はそんなことを言いあう。
というかその下着で何ができるというのだろうか?
俺が逆に聞きたいと思う。
不安になっている俺とは違い、アイラはどこか自身満々だ。
「さあ、ただしやるのよ」
「いや、状況がよくわかってないのに、何をやるんだよ」
「決まってるでしょ、セコにこれをかぶせるのよ」
「なるほどな…っていやいやいやいや、そうはならないだろ」
「どうして?」
「どうしてって…」
逆に、アイラの頭を心配する。
それは俺以外の人たちも同じだったようで、最初に女性から声があがる。
「そ、それになんの意味があるんだよ」
「そうよアイラ、そんなことをしても何も変わらないじゃない」
「本当にそう思う?」
「どういうこと?」
ミライが疑問に思って聞くと、アイラは俺のことを指さす。
うん?
何かあるのか?
「これをかぶせて、この国の象徴にならせるのよ」
「いやいやいやいや…意味がわからないんだが…」
「なるほどね、そんな生き地獄を味合わせるということね」
「そ、それはうちも嫌だな」
「おい、なんでお前たちはそれが嫌なことだって思うんだよ。普通に言っていて、俺の事をシンプルにディスってることをわかってほしいんだが…」
「でも、そうなると、パンツを常に被ってないといけないと思うけど…」
「それなら大丈夫よ。セコのスキルが何かわかったからね」
「そうなの?」
「うん、だからいけると思ってる」
うん、もう俺の話は完全に無視みたいだ。
けど、確かにパンツを被って何かをするってことを考えると、かなりの屈辱をセコに与えることができるだろう。
少し自分の顔に自信があるみたいだから、そんなことをすれば素顔を晒すということも難しくなるかもしれないということなのだろうか?
果たしてそんなことがうまくいくのだろうか?
それに、このセコのスキルがわかったところで、できることがあるというのだろうか?
そう思っていたが、アイラはパンツをセコの目の前にもっていく。
「僕にそんなものを見せて、何をさせる気なんだ?」
「そうね。私がいうことをこのパンツに込めればいいわよ」
「どういうことだ?」
「そうね。こいつ…セコのスキルがソウゾウスキルってことはわかったんだけど。それはものを作る方の創造じゃなかったってことね」
「ということは、物思いにふけるほうの想像ってことなのか?」
「そうなるのかな。だから、私は魔力を使えなくという想像を勝手に頭に流されるものを身に着けることになったけど、魔力を使えたってことになるわね」
「まじかよ。そんなことがあったのか…ということは、セコのスキルを使って、パンツにソウゾウスキルを使って、何かをつけるのか?」
「そうよ。やるのはそうね。お母さんの言うことをずっと聞いてこれから生活するってことでどう?」
「は、そんなことをして、どうなるんだよ」
「そうね。別にあなた自身は優秀だと思うから、私は殺してしまうのが惜しいってだけかな」
「でも、そんなことでうちらがこれまでやられてきたことには絶対に足りない!」
「わかってる。だからこそ、そのヘンタイな恰好をした男を象徴としようってこと」
「まさか、アイラは悪いのは全てセコにして、なのにセコは下着を被った姿で、象徴として、この国を救った人にさせるつもりってこと?」
「そういうこと!」
なるほどな。
この女性たちもやられたことを知っていることを考えると、上にいて反逆の機会を狙っていた人たちは、セコが悪事をしたせいで、この事態になってしまったことは知っている。
だから、ここでセコを殺したことにし、それをしたのは下着を被ったヘンタイがやったってことにして、セコを象徴とすることで人前でも、いつでも下着を外せないようにして、この国で馬車馬のように働かせようってところなんだろう。
ただ、そこで気になることがある。
「まてまて、ということは、俺が下着を被っているときはどうなるんだよ」
「もちろん、頑張って戦ってもらうよ」
「なんだと、俺の意思はないのかよ」
「仕方ないでしょ?いつか、私の下着を被ってたこともあったよね」
こ、断る選択肢がないというのは、こういう状況なのか…
俺は力なくうなずく。
「はい、頑張らせていただきます」
「うん、頑張ってね」
脅しをくらった俺は、セコの隣に座る。
「ということだ。俺も頑張ることになった、お前もやるしかない」
「僕がそんなものを被らないといけないというのか!」
「そうか、拒否をするのか…」
「おい、どうして僕の服に手をかける?」
「いや、先に女性用の下着を履けば、羞恥も消えるかなって…」
「まてまて、わかった、それならまだ顔が見えない分、被るほうがいい」
「おお、聞き分けがよくて助かるな」
「くそ、こんなことになる予定じゃなかったんだぞ、僕はな…」
「はいはい、パンツを被ろうね」
「うああああああああああ…」
そうして、新たなヘンタイが出来上がってしまったことに、俺はお辞儀をする。
何もかも、一応終わった。
俺たちは、中心に新たなヘンタイを生み出しながらも、セイクリッドを救うことに成功したのだった。




