141話
「「ただし」」
聞こえた声は起き上がったミライと、崩れた上からのものはアイラだろう。
だからこそ、俺は背中に嫌な汗をかくのを感じた。
俺は今、ヘンタイスキルと、それに伴う気の使い方というのをなんとなく思いだした。
それによって、俺は目の前にいる、このセコの攻撃を完璧に避けることに成功した。
だというのにだ。
こんな姿をアイラに見られてしまったのだ。
これは、非常にまずい展開になってしまったな。
こんなところを見られたなら、セコの方にアイラがついてしまうかもしれない。
こういうときはあれだな、返事も何もしないのに限るな。
俺は知らぬ存ぜぬを決め込むためにも、何も話さないでおいた。
ただ、アイラの存在に気が付いたセコはどこか嬉しそうに口を開く。
「おお、僕を迎えに来てくれたのか」
その表情は、どこか恍惚なものに見えた。
ただ、それを見たアイラは、かなり引き気味に言う。
「え、違うんだけど…」
その言葉を聞いた瞬間には、セコの顔は怒りに包まれる。
「ただし!」
俺はどうするべきかと、構えていたが、そのタイミングでミライに名前を呼ばれる。
そして、目線が合うと同時に、上を向く。
俺は何が言いたいのかを理解する。
だからこそ、ミライの方に走る。
「え?」
驚くミライを無視して、俺はミライの体をいつものように抱っこするとジャンプする。
そのタイミングで、セコも血を使い上へと登り始める。
大量の血をセコが使い、攻撃を繰り返していたので、この空間ももう崩れそうだ。
セコは、すでに俺など眼中にない様子で上に上がって行く。
だからこそ、その後ろをから、俺は段差のように崩れた足場をセコに遅れて上った。
セイクリッドの中心地へ出てきた俺たちは、向かい合っている二人を見た。
「その姿も素敵だね」
「そう?そういうあなたは気持ち悪いわね」
「ふ、最初はそう感じるかもしれないが、すぐに僕のとりこにしてあげるよ」
うわ、完全に気持ち悪い会話だな。
どれだけ自分に自信があれば、気持ち悪いと直接言われた相手に、大丈夫だと言えるのだろうか…
そんなことを思いながら会話する二人を見ていたのを感じたのうだろう。
ミライは地面に足を降ろすと言う。
「あんなに気持ち悪い男が、あれだけ粘着しているってことで、わかる?」
「まあな…」
先ほど、部屋で出会ったときと違い、凛とした表情でセコと相対しているところを見れば、確かに手に入れたいと思ってしまう輩がいるということについては理解できた。
それでも無理やりはどう考えてもダメだろ。
そんな俺の思いを知ってか知らずか、セコはアイラを見ると下品な顔をする。
「まあ、僕が作ったアーティファクトを使えば、そんな余裕もなくなるのかな?」
そう言うと、セコは右手を前にする。
見たことがある、あれは…
魔力が使えなくアーティファクトというやつだ。
それを使ったセコは不適な笑みを浮かべている。
「さあさあ、僕のものになるんだ!」
そんな言葉とともに、セコはアイラに近づいていく。
ヤバい、このままじゃ!
俺はアイラを助けるべくこの場から駆けだそうとしたが、それをミライによって止められる。
「ミライ、何をするんだよ。助けないと…」
「大丈夫、私が視た未来は、もうずっと変わっているから」
「どういうことだ?」
意味がわからずに、そう口にしたが、すぐにそれはアイラから感じる。
これは魔力の高まり?
驚いて、アイラの方を見ると、アイラは自信満々に笑っている。
「我の手に、守るための聖なる力を与えよ、ホーリージャベリン」
「なに!」
驚くセコを、アイラは魔法で作りだした光に包まれた槍で突く。
ただ、さすがはあれだけの血を使うことができたドラキュラなのだろう、セコは血を使って防御をしようとする。
それでも、血の壁は光の槍によって簡単に貫かれる。
「くそ!」
「浅い…」
アイラがそう口にする。
アイラの攻撃はセコに当たったと思ったが、どうやらそうではなかったようだ。
一応血の防御が少し機能していたのだろう。
少しの時間ができたことで、アイラの突きをかわすことに成功したようだ。
そのまま、セコは少し距離を取る。
その顔は先ほどまでの余裕があまりなかった。
「どういうことだ。僕が作った、このアーティファクトはちゃんと機能しているはずなのに!」
「どういう理屈なのかがわかったら、私でもなんとかできたのよ」
「ちぃ、これがどういうものなのかわかったのですか…」
「うん、じゃないと、私は今、魔法を使ってないでしょ!」
「確かにそうですね」
セコは、そこまで言うと、肩をすくめる。
「でも、ここまでのことをしたのですから、傷がついても泣かないでくださいね」
「それは私のセリフよ」
その言葉とともに、セコは血の槍を作ると攻撃を開始する。
アイラも対応するべく、光の槍を構えた。
「これで、どうですか!」
「ふん、甘いのよ」
アイラはそう言うと、セコが行った突きを、同じく突きで対抗する。
「す、すげえ…」
その状況に思わず感嘆の声を漏らすと、隣にいたミライが嬉しそうに言う。
「私の自慢の親友ですから」
「ああ、これは確かに自慢したくなる理由がわかるな」
「でしょ!」
セコが先に攻撃を行い。
その突きや、払いの攻撃に合わせるようにして、アイラが攻撃をして弾く。
武器を使った戦いなど素人でしかないが、それでもどちらが強いのかなんてことはわかる。
アイラが完全に勝っている。
このまま倒せる。
そう感じたのは、どうやら俺だけではなかったらしい。
「このまま押し切る」
その言葉とともに、アイラは前に出る。
でも、それを待っていたのは、セコの方も同じだったのだろう。
体に隠すようにして作られてた血の槍が、アイラに向かって飛んでいく。
かなりの至近距離。
このままでは当たるだろう。
でも、ここにいるのはアイラ一人ではない。
「カイセイ流、二の拳、シューティングスター」
俺は気を拳から飛ばしていた。
それによって、アイラに向かって飛んでいた血の槍を弾き飛ばす。
「くそがあ」
「ふん、これで終わり!」
「がああああ…」
攻撃を防がれたことによって、隙がうまれたセコはアイラによって槍で貫かれた。
少しの絶叫とともに倒れるセコを見ながらも、これで新たな戦いが始まることにどう言い訳をすればいいのかを考えていた。




