140話
「なに!」
「ふふん、使い方がなってないよ」
「くそが!」
ドラキュラの男は、そう言葉にしながらも、血でできた槍を構える。
何がどうなっているのかわからないのだろう。
だったら、目の前で実践してあげるのみ!
「これならどうだ!」
「だから、使い方がなってないから!」
私はすぐに何をやるのかを見て、母親に槍を突き刺した。
「ちょっと、何をしているの?」
「いいから!」
慌てて言う女性を無視して、私は確実にそれを貫くと抜き去る。
傍から見れば、急に体へと光の槍を突き刺す、完全に危ないやつだろう。
でも、ちゃんと理由がある。
それに気づいたのは、お母さんだった。
「あれ。体の中にあったはずの不純物が消えてる」
「え?ほんとだ」
それでようやく、女性の方もその異変に気が付いた。
体に入っていた不純物を、私の槍で消し去ったということに!
二人の会話を聞いて、ドラキュラも気づいたのだろう。
「その槍は、相手を傷つけるのではなく、異物を取り除くものということですか」
「そういうこと!」
「ぐう…」
すぐに私は光の槍によって、攻撃を再開する。
突き、返し、薙ぎ払い。
「くそ、いい気になりやがって!」
「そっちが弱いだけでしょ」
「ちい、火よ、相手を焼き尽くす炎となせ、ファイアー」
槍ではかなわないと気づいたのだろう。
ドラキュラは炎魔法を飛ばしてくるが、私はあることを試したくて魔力を高める。
「はあああああ!光の槍よ!」
高めた魔力で光の槍を強化する。
光が増した槍は、炎の魔法を簡単に消し去った。
「なんだと!」
「そして、これで観念しなさい。はあああああ」
私は槍を投げる。
光を発しながら、槍はドラキュラに向かって飛んでいく。
さすがにそれをくらってはまずいと思ったのだろう。
ドラキュラは何かをしようとする。
ただ、その時に声が響く。
「我の前に絶対に通さない聖なる壁を作りたまえ、ホーリーバリア」
「く、この人間如きが!」
何かをしようとしたドラキュラだったが、女性が作ったホーリーバリアによって、逃げることができず、光の槍はホーリーバリアを貫き、さらにはドラキュラをも貫いたのだった。
すぐにドラキュラの体は光に包まれてしまい、その場には魔石だけが残ったのだった。
終わった。
私は、お母さんに手を伸ばした。
「あ、ありがとう」
「ううん…」
少し照れくさくなりながらも、お互いに言葉を口にした後だった。
背中をバシッと叩かれる。
「あなたやるわね」
「えっと…」
「あはは…さっきはごめんなさい。うちだけじゃなくて、あいつも…」
「それはいいんですけど、さっきの人は…」
「ええ、生まれたときから、うちと同じだったから魔族じゃないはずなんだけど…何かをされたんでしょうね」
そう言う彼女の背中には哀愁が漂っている。
ただ、私は話題を変えるべく、気になっていたことを聞いた。
「あの、そういえば、体の中にあった異物って…」
「えっと、おそらくこれね」
そこでお母さんと女性の同時見せられたのは薬だ。
「これって薬?」
「そう薬よ、それも特別なもののね」
「何が入っているの?」
「かなり依存性が高い何かが入っているっていう噂よ」
「どうして、そんなものを飲んでいるの…」
「それは、うちは家族を人質にされて仕方なく」
「私は、ミライちゃんとアイラにあいつの気が向かないように…」
「あいつって…」
「セコのことよ」
その言葉とともに、何か悪寒が体に感じる。
それはどうやら二人も同じだったようで、私が見ている方向と同じ場所を見ている。
これは…
「何かが始まったみたいね」
「誰かが戦っているってこと?」
「そうじゃないの?」
二人のその会話で、すぐにその誰かがただしだと思った私は合流するべく歩を前に進めようとする。
ただ、異変はそれだけではなかった。
建物の外で大勢の人が、悪寒を感じる場所に向かって歩いていっている。
「どうなってるの?」
「これは…」
「伝承のことでしょうね」
「どういうこと、お母さん」
「ドラキュラの伝承に、書かれていた内容のことよ。ドラキュラの血を飲ませることによって、人を意のままに操れるっていうものね」
「それって…」
「もしかしてさっきの薬に…」
「そういうことみたいね」
先ほどの光の槍によって、貫いた二人はそれを除外できたのだろう。
でも、この国にいる他の人は、同じように薬を飲まされた。
もしくは、好んで血を飲ませてもらったということなのだろう。
だから、これだけの人を動かせているってことなのね。
今、これを対処できるのは私の光の槍だけだろう。
進もうとした足を止める。
「私が…」
そう口にしたときだった。
目の前に二つの影。
顔をあげると、そこにはお母さんと女性の二人が私を見ている。
「ここは私たちの出番よね」
「ああ、うちらがここはやる」
相手は相当な数がいる。
二人では確実に難しいのがわかる、だから…
「私も手伝う」
そう言葉にしたが、次の瞬間には頭をたたかれる。
「イタ…」
叩いた相手を見ようと顔をあげると、そこには真剣なお母さんの顔があった。
「アイラは、先に行きなさい」
「でも!」
「でもじゃないのよ。私は行きなさいって言ってるの」
「そうそう…それにうちらじゃ頼りないこと?」
「それは…」
この女性の口ぶりから、お母さんが強かったというのと、戦ったことから女性が強いのはわかる。
でも、対抗策を持っているのは、私だけで、普通に考えればここで二人と一緒に戦うのが、きっとただしたちと出会う前の私だっただろう。
でも、ただしたちと出会うことで、こんな状況ですらもみんながいればどうにかなるんじゃないのかとさえ、思えてしまう。
私はお母さんの顔を正面から見据えた。
「じゃあ、私は行くね」
「ええ、行ってらっしゃい」
私は、その言葉を聞きながら、ただしがいるであろうセイクリッドの中心に向かって走った。
そして、そこについたときにいたのは、何か邪悪な存在になっているであろうセコと、女性の下着を被ったヘンタイだった。
えーっと…
もしかしてくるところ間違えたのかな?
そう思いながらも、私はただしの名前を呼んだのだった。




