125話
「着いたぞ」
「あ、ありがとう」
「ふ、気にするな」
俺は格好つけてそう返した。
塔内部に侵入したが、どういうわけか人が一人もいない。
こういう重要な場所には警備がたくさんいるはずだと思っていたが、そういうわけではないらしい。
俺は人がいないわけがわからなかったが、ミライはそうではなかったらしい。
「やっぱり誰もいないよね」
「どういうことだ?」
「セコ・インダーって知ってる?」
「名前くらいのことだけどな」
「そっか、そのセコが作ったものが、魔力を無力化できるアーティファクトだとしたらどう?」
「ああ、それがここにあるから魔力がない人間はそもそもさっきみたいなショートカットして中に入ってこれないって?」
「それもあるし、そもそも魔力が途中でなくなるんだから、魔法が急に途切れることなんかも普通にあり得るんだよね」
「確かに魔力を頼りにしているやつらならそうかもな」
「そうね、実際私も、ここに来てもヨチスキルによって視えるものが視えないからね」
「それそれでいいじゃないか」
「どうして?未来がわかるって便利じゃない?」
「じゃあ、ミライは未来が視えたら、その通りにしないと絶対にいけないと思うのか?」
「そうね、それが私が視える未来だから…」
「そうか」
これは教育的指導が必要だな。
ミライがそもそもおかしいことを言っていることを理解させない限りは、ミライの未来を俺が変えたところで意味がないな。
でも、今は先にやることがあるな。
俺はあたりを見回した。
「それで、ここからはどうするんだ?」
その言葉によって、ミライもここに来た目的を思い出したようでハッとする。
そして、指さした先にあったのは…
「これがそれってことか…」
「私が完璧じゃないけど、視た未来ではね」
「そういうことか…」
そこにあったものは指輪だった。
どういう理屈なのかはわからないが、宙に浮いている。
いかにもそれっぽいやつだな。
こんなひねりがない感じで、そういうものが置いてあるのか?
ヘンタイ眼で、あたりを確認するか?
いや、時間がかかりすぎる。
その間に、ここにいることがわかれば、敵がなだれ込んでくるってことも全然ありえるよな。
そうなることがないように、やるしかないか。
新しいヘンタイ技を…
俺はまだ体の内に残るヘンタイを新しい技とするべく、集中した。
これまでできたことを応用して、新しい技にする。
まずはいつものように変なポーズを俺はとった。
それは、こんなときに普通の人がしないこと、顔に手をやり、足をあげる。
まさしくナルシストか、俺のようなヘンタイしかやるやつがいないポーズだ。
あとはそう、このままヘンタイとしての領域を広げる。
ヘンタイゾーン。
簡単にそうなずけたこれは、ヘンタイとして必要であるもの以外は異物として感知することができる最強の感知技である。
「なるほどな」
「きゅ、急に変な動きをして、わかったって何がなの?」
「おい、変な動きとは失礼だぞ」
「じゃあ、なんなのよ」
「変なポーズだ。俺は動いてはいない!」
「そんなところを拘らなくてもいいから、そもそもくいつくところはそこじゃないわよね」
「ふ、仕方ないな。俺が気づいたことを教えてやろう」
「え、うん…」
かなり何を言っているのかという感じの顔をされるが、感じたのだから仕方ない。
俺はこの部屋にあった柱の一本に近づく。
そのまま拳を握った。
「何をするんですか?」
「まあ、ぶっ壊すだけだ」
ナックルをつけた右手をしっかりと握ると俺は腕を引き絞った。
普段であれば、壊すこともできないはずの石の柱を俺は破壊した。
「これは…」
「こんなところだな」
そこにあったのは水晶のようなものだ。
それもどこか光っている。
これが感知をするバリアを張るために必要なものなのだろう。
「ふむ…てい」
俺はチョップをしてそれを破壊した。
「そんなに簡単に?」
「うん?簡単に壊れないものなのか?」
「わかんないよ、壊したことないからね」
「そうだよな。簡単に壊れたから、こういうものじゃないのか?」
「あなたがいうのなら、そういうものなのかもね」
「そうだろ?」
「それでね、わかる?」
「ああ、大丈夫だ、行くしかないだろ」
「じゃあ、お願い」
ミライは両手を広げて俺のことを見る。
それで何をするのかはわかった。
俺はミライを抱っこすると、今度は塔を駆け下り…
駆け落ちる。
「きゃああああ」
「うおおおおお、さすがに、これは初めての体験だああああああ」
どおおん。
という音と、ともに崩れ落ち始める塔を足場にして、俺たちは外に落下するようにして出ることに成功した。
あの水晶を破壊しただけで、こんなことになるとは思わなかったがな。
なんとか地面の上に着地した後に、塔が崩れ落ちるのを二人で見ながら、そんなことを思った。
「あんなところにいるぞ!」
「追えーーーー」
そして、巻き込まれなかった人たちが俺たちを追ってくる。
抱っこの態勢のまま俺たちは…
「逃げるか」
「そうだね」
そうして、ここから去って行くのだった。




