123話
「一人でこんなことをする日がくるなんて思わなかったな」
俺はそんなことを考える。
それも仕方ないことだった。
だって、これまでといえば最初以外は、誰かと一緒にいたことがほとんどだったからだ。
ほとんどのところで、みんなに助けてもらったし、俺もみんなを助けることが少しでもできていた。
だから、パーティーとして誰も欠けることもなくやってこれていたが、とうとうというべきか、俺たちの中からアイラが連れ去れるという形で、パーティーからいなくなった。
それは俺も含めて、全員がスキルという面で、自分を偽っていた結果が引き起こしてしまったことにすぎない。
だからこそ、俺たちはスキルを最大限に使うことで、アイラを助ける。
それが今の目標だ。
「それにしても、どこかもわからないんだが、このまま進んでいいものなのか?」
俺はシバルの指示に従って、セイクリッドに入っていた。
ヘンタイスキルを使うことによって検問がある場所以外から入ることに成功した俺は、首都であるセイクリッドに向かうためにはこの方向に歩けばいいと言われたが…
「目印とか、標識とかほしいよな」
これまで舗装された道ばかりを歩いていたということもあるが、こうやって何もない道というか、森を歩くというのもかなりの労力がいる。
シバルが言うには、セイクリッドには周りを木々が覆っているらしい。
それには理由がしっかりとあって、それには木々から出る、生命の力を借りて、感知系のバリアを張っているという話しだった。
「だからって、こんなに生い茂らさなくてもいいだろう…」
森の中に足を踏み入れると行く手を遮るように木々が生い茂っている。
さすがにというべきか、そもそもというべきか、こういうところに慣れていない俺は歩くといっても、それなりに体力を使う。
だからだろう、早朝から歩いているという状態にも関わらず、森を抜けるころには夕方になっていた。
時間がたつのは早いな。
そんなことを考えながらも、森を抜けた先に見える町に向かって進む。
入れないとはいえ、この地図でどこにいるのかは確認したいよな。
俺はもっていた地図を広げる。
これは、先ほどの町でセイクリッドから来た神官などにうまく交渉してもらったものだった。
簡単にいえば、お金で買ったものだ。
最近までセイクリッドにいたから、外の世界で使えるお金をもっていなかったという神官には、少し多めにお金を渡して買ったものということらしい。
そのかいあってか、地図はかなり最新版のようだ。
「それにしても、あれは目立つな」
俺がそう口にした先にあるのは、塔だった。
森の途中から迷わずに向かってこれたのはこれのおかげでもあった。
この塔というのは、感知式バリアを張るために重要な拠点というものらしい。
地図で見ると、星の頂点になっている場所に塔があり、その周りには町がある。
そして、中心地であるセイクリッドは星の中心地にあるわけで、誰が見ても儀式か何かで守っているということがわかる作りになっている。
「バリアの壊しかたか…塔を破壊するのが一番手っ取り早いのか?」
そんなことを考えながらも、俺は町に近づきながら茂みに隠れていた。
魔力がないから、感知には引っかからないとはいえ、普通に見られれば、当たり前だがいることがばれるので、慎重になるのは仕方なかった。
このまま中心地であるセイクリッドに行くのか、もしくは塔を壊して回るのか…
どれが正解なのかわからないな。
そんなことを考えていたときだった。
「ふっ…」
「うわっひい」
耳に息を吹きかけられて、俺は立ち上がりそうになるのをなんとか耐えて、地面に転がった。
ただ、そこには誰もいない。
どういうことだ?
スキルとかで透明になっているというのだろうか?
俺はそう考えていたが、すぐに謎がわかった。
茂みの一部が動いたのだ。
「うん?」
俺は近くにいた小枝で、その動いた部分をつついた。
するとどうだろうか…
「うん、くう…うひ…」
なまめかしい声が聞こえるではないか…
これはどういうことなのかと思っていると、そこには普通に女性がいた。
それもギリースーツを着ただ。
さすがに見つけてしまったこともあるし、このままというわけにもいかなくなった俺は声をかける。
「えっと、何をしているんですか?」
「ふふん、私はね、あなたが来ることを待っていたんだよ」
「なるほど…バカですか」
「バカじゃないよ。私はね、確かに天然とは言われたことあるんだけど、どこか天然に見えるのかな?私は至って真面目だからね。そんな私をバカにするなんてよくないんだからね」
「そうなのか、でもこんなところで待っているなんて、大変じゃなかったのか?」
「ちゃんと来ることがわかっていたからね。大丈夫だったよ」
「そうか、偉いな」
「そうでしょ!」
そんなことを言いながらも、ギリースーツから見えた彼女の顔は可愛い。
茶色の髪に栗色の瞳。
アイラの髪は白髪なので、それとはまったく違った見た目でありながらも、セイクリッドにいるということは修道女なのか?
見た目通りと言っては悪いかもしれないが、快活に笑っている。
そして、よく見ると、ギリースーツでも隠せないくらいの巨乳でもあった。
そんな少女は、ささっとギリースーツを…
「チャックが引っかかって脱げない」
脱げないようだ。
どうやらタイツのようなものを着た上から葉っぱを張り付けたみたいだ。
そりゃチャックなんか開くわけない。
俺はもぞもぞとしている少女とともに揺れる胸を見ながらも、申し出る。
「俺が外そうか?」
「い、いけるの?お願い」
そう言葉にして、少女は背中をこちらに見せる。
見えた白いうなじにどこかドキッとしながらも、俺は発動していたヘンタイすきるのおかげで、強引にチャックを開けた。
「ふひ…」
勢いよくおろしたからだろう。
少女からはそんな変な声が聞こえたが、俺はなんとか平常心を保ちながらも、少女がギリースーツを脱ぐのを待った。
そして、ギリースーツを脱いだ後に見た少女は…
「まじかよ」
「ふふん、大真面目だよ」
俺がシバルから話に聞いていた、ミライという少女と同じ特徴をしていた。
慌てて拳を握りしめる俺に、ミライはいたずらっ子のように笑う。
「ふふん、ここになんでわざわざ私のような美少女がいると思っているんですか?」
「いや、普通に捕まえるためじゃないのか?」
「それなら最初からできていますよ、私は視えますから」
そう少女は言う。
シバルから聞いていた。
ミライ。
スキルによって未来が視える、この少女はセイクリッドで最も貴重な人材であり、さらにはアイラと親友でもある存在だと…
アイラが最初に自慢していたのが彼女のことだと、シバルは言っていた。
そんな少女が、意味のわからない恰好で近くに待機していたということも驚きだが、さらなる驚くことは、俺がセイクリッドを壊す存在であるかもしれないというのに捕まえないというのだ。
そんな少女は言う。
「ねえ、ミライたちの未来を変えてよ、すぐに未来を変えるヘンタイさん」
その言葉はどこか悲しげで、でも力強い言葉だった。




