114話
「ただし…」
「どうした?」
「その下着を渡してください」
「なんだと…」
「そんなに、ショックを受けないでください。その、それと釣り合うかわかりませんが、ボクの下着を渡しますので…」
「まじか…」
このタイミングでアイラの匂いが少しずつ薄れていた下着と、あきらかにシバルの匂いが染みついている下着なのか…
ふ…
決まっている。
俺はシバルに笑顔を向けると言う。
「シバルのものも一緒に被る、これでいいと思わないか?」
「よくないのじゃ!」
「イタ…殴るなよヤミ…」
そこにいたのは、下着を被った俺のことを殴り飛ばしたヤミだ。
呆れと怒りの半分ずつが入り混じった顔をしている。
そんなヤミを見て、俺は言う。
「殴らなくてもよかっただろ?」
「だったら、まずはそのふざけた恰好をなんとかするのじゃ」
「ふざけてなどいない。俺の正装ってやつだ」
「それが正装じゃと?」
「そうだ!」
そう言いながら髪をかきあげるような姿をする。
まあ、下着を被っているから、かきあげるような髪は今は下着の中に収まっていてないのだが…
そんな格好つけたやり方に対して、ヤミは俺のことをゴミを見る目で見ている。
「ふう、そういう目で見るのはシバルだけにしておくんだな」
「ええ、その目…見せるのならボクにだけにしてください」
「ほんとうに二人とも最低の言葉を言っておる自覚がないのじゃな?」
「そんなことはない…」
「そうですよ」
「「俺が変わっているのはスキルだけだ(だけです)」」
「うう、頭が痛くなるのじゃあーーー」
そう言葉にしながらも、ヤミは頭を抱える。
うん?
どうしたのだろうか?
ちゃんと俺たちは説明したはずだけどな。
俺たちが今お互いに性格というか、口調というべきか…
それが違うというかおかしいのは、スキルのせいであって、俺たちが望んでそうなったわけじゃないというのに…
だからこそ、俺はいつものように声をかける。
「大丈夫か?」
「その恰好で心配するでないのじゃ」
「なんでだ?見た目が少し違うだけじゃないか?」
「見た目が違うだけで、これだけ引かれる存在になるということをわかってほしいのじゃ」
「なん、だと…」
「そんな驚いた雰囲気をだすのでないのじゃ」
「いや、だって…な?」
「わかるじゃろ?みたいな顔をするでないのじゃ、膝をついてわらわをチラチラと見るでないのじゃ」
ショックを受けているという感じで、俺は膝をついて、ヤミのことをチラチラと見ていたのだが、どうやらばれていたようだ。
そういうところは、さすがというべきだろう。
ただ、今はそんなことをしている場合じゃなかった。
「ちょっと、あなたち、いい加減にわたくしを手伝いなさいよ」
「あ、すまん」
「すまないじゃないのよ。あとで絶対にお仕置きしますから、覚えておきなさいよ」
「でも、そっちはそっちで楽しんでるんだろ?」
「ふふふ、だってこういう機会もそうそうないですから」
「そうかよ」
「ええ…ああ…いいわよね」
「あ、えっとなのじゃ…」
ヤミが何も言えないのはわかる。
そこには右手を唇にあて、妖艶にほほ笑みながらも、左手でその溢れんばかりの胸を強調しながらも、ゲートから出てきていたウルフを倒していた。
それもいくつも魔法を撃って、逃げ場をなくすというやり方でだ…
さすがはドエススキルだ。
倒すということに容赦がない。
そして、エッチだ!
俺たちはその姿に見とれながらも、ゲートに向き直る。
「それで、おぬしはその恰好をいつやめるのじゃ?」
「うん?俺がヘンタイだと悪いのか?」
「そうじゃな、世間一般では、断罪されるくらいには悪いじゃろうな」
「まじかよ」
「はあはあ、まあただしのそれは仕方ありませんよ」
「おぬしは顔を赤らめて、少しもじもじしながらそんなことを言うでないのじゃ」
「そうよ。わたくしたちは普通ですからね」
「もう、ツッコムのも面倒くさくなってきたのじゃ…」
ただ、すぐにヤミが疲れてしまったようだ。
俺は仕方なく下着を頭から脱ぐ。
それを見た、シバルたちも姿勢を正した。
「それじゃ、これをどうするのか、考えないとな」
「そうですね」
「話を聞いている限りでは、勇者だけに壊せるものと言われてたわよね」
「ああ…でも、勇者なんかこの中に誰もいないぞ」
「そうなんですよね」
「わたくしたちが本気で攻撃したら壊れないのかしら?」
「無理だろ…そもそも俺の武器は拳だから難しいしな。何かいい案があるかヤミ?」
「…」
「ヤミ、どうかしたのか?」
真面目にゲートの話をし始めたというのに、肝心のヤミは黙ったままだ。
どうかしたのだろうか、お腹でも痛くなってしまったのだろうか?
そう思っていたが、そのあとの絶叫で、それが間違っていたものだということに気づく。
「おぬしらは、なんなのじゃあああ!」
「どうかしたのか?」
「おかしいじゃろ?」
「おかしいのか?」
「当たり前じゃろ、さっきまで、それなりにギクシャクというべきか、なにかこうなっておったじゃろ?」
「あー、ちょっとお互いに遠慮をしていただけだな」
「「そうですね(わね)」」
「どうして、遠慮がなくなるだけで、あんな変な行為の数々を見逃すのじゃ」
「見逃してはいない…」
「じゃあ、なんじゃ?」
「尊重しているんだ!」
俺のその言葉に、シバルとバーバルはうんうんとうなずく。
ただ、ヤミはというとありえないものを見たという表情をしている。
だって、全員のスキルがおかしいのだ。
それに、全員がなんとなく理解しているが、使うのがなんとなくためらわれる。
そんな状況だからこそ、全員がスキルを発動したところで、特に何も思わない。
むしろよくやってくれたと考えるべきなのだ。
それなのに、見た目は確かにあれだが、年齢的には年長者のヤミが何を言っているんだと思う…
そんな風な顔で、見ていると、さすがのヤミも諦めたようだ。
「それで、このゲートじゃったかの、これは壊せるものなのかの?」
「えーっと…シバルは、わかるのか、これについて…」
「すみません。アイラ様ならもしかすれば知っている可能性もあったのですが、ボクは勇者召喚に立ち会ったというわけではなく、勇者がパーティーを募るというタイミングで仲間になったので、わからないのです」
「なるほどな…ちなみ、バーバルは?」
「わたくしも、知っているのは文献にあった、勇者が壊せるということを何かで読んだくらいですわね。先ほどの神官らしき男性が話していた、ゲートというのは勇者の最初に現れる試練って言っていたことも初めて知りましたしね」
「そうだよな。俺も全くわからないな」
といっても、俺も一応神に選ばれた人だ。
召喚と転生という大きな違いはあるが、お互いに選ばれたという点では何か使えることがあるのかもしれない。
ただ、俺はこの世界にやってきた方法も特殊だし、勇者として召喚されたというわけでもない。
それに、この世界に来た時に別にゲートなんかなかったしな。
ちょっとゴブリンに襲われただけだ。
ただ、そこで気になるのは、最初の町でモンスター進行が起こった際にもたぶんゲートがあったということだろう。
誰も気づいていなかっただけで、さっきのようにカウントダウンが終わり、勇者がこの世界にやってきて…
うーん…
今は、そのことを考えていても仕方ないな。
まずは、目の前のゲートについて考えないといけないな。
そう考えていたときだった。
ゲートの横にさらにゲートのようなものがが現れた。
もしかしなくてもわかる。
見たことがあるからだ。
そして、予想通りそこから出てきたのは、俺たちが見たことがある人達だった。
「これはこれは、元気にしておられましたか?」
「ピエロ…」
「ええ、ピエロでございます」
そんな口調とともに、ピエロの見た目をしたあいつが現れて、そして次に現れたのは黒い髪、黒い瞳。
少し黒みがかった肌にとがった耳。
物語ででてくるダークエルフってやつなのだろうか?
初めて見る顔ぶれに、思わずまじまじと見てしまう。
「おい、人の顔をジロジロと見てんじゃねえ」
それに反応したダークエルフの…
「女性か…」
「おい、顔をジロジロ見るなっていったら、次はどこを見てやがんだよ!それになんでそれを見て残念そうな声でいいやがる!」
「だってなあ…」
「お前、失礼か!おい、ピエロ、どうなってんだよこいつ!」
「ふむ、そんなことを言われましてもねえ、わたくしめにはどうすることもできませんから」
「ピエロ、お前もどこかに飛ばすぞ」
「反抗期ですかねえ」
「お前なあ…」
「かもしれないな」
「ですよねえ」
「ああ…」
「てめら、いい加減にしろや」
そういう彼女は、完全に胸が…
膨らみすらないダークエルフの女性が登場した。
ラグナロクと呼ばれる、俺たちと敵対しているはずのメンバーがこの場にやってきた。
ということは理由があるということだな。
俺は、念のためしまったパンツに手をかけながらもこの場をやり過ごすために口を開いた。




