113話
そんなヤミの表情を見ながらも、俺はヤミに怒りを感じて…
怒りを感じた自分自信を、なんて不甲斐ないんだろうかと思ってしまう。
異世界にきて、俺は確かにヘンタイスキルという、普通ではありえないものであり、さらには恥ずかしいようなスキルを手に入れてしまった。
確かに、俺は今までヘンタイスキルを使って最初からアイラや、シバル、バーバルを助けることはできていた。
でも、それは自分を隠してだ。
社畜時代にもしていた。
自分がこの会社を陰から支えているのだからいいだろうと…
別に自分が活躍しているところを誰かが知っていないくても、見ていなくても、自分が納得できるのだからそれでいいだろうと…
でも、違った。
俺は、キメラと戦うヤミに今嫉妬している。
理由は簡単だ。
ここで戦うことで、ヤミは黒龍としての強さと、そしてかっこよさを見せることができる。
そんなのって、なんだか主人公みたいじゃないか…
それに嫉妬するってことは結局、俺も何かで活躍してみんなに見てもらいたかったと思っているからじゃないのか?
確かに見てもらうといっても、スキルを使うとすれば、それはヘンタイになるということだ。
でも、ヘンタイになるタイミングを考えないと、アイラたちにばれてしまって大変になるとか、陰から助ければいいだけだからと考えていたけど、前回のオーガ襲撃ではやられるまで結局は何もできないでいて…
今回もアイラが連れ去れるのを見て、そして出てきたキメラもこのままヤミが倒すと言っているのを見ているだけでいいのか?
自分が本気を出して、全てを救う。
そんなことを現実世界でも、大人になっても夢物語のように考えていたのだ。
だから魔法使いになったら世界を救うんだ。
バカみたいに、そんなことを考えながら、童貞を貫いていたのだから…
すでに、いつも助けにくるヘンタイの正体がなんとなく気づいているシバルがいるのだ。
今はケッペキスキルのアイラもいない。
だったら隠すのもバカバカしいと思わないか?
どうせ、ヤミに関しては奴隷紋があるから、引かれたところで気にしなければいいだけだからな。
「く、フハハハハハ!」
俺は笑う。
急に笑い出した俺に、ヤミが怪訝そうな表情を見せた。
「なんじゃただし、おかしくなったのかの?」
「うるさいわい。黒龍ってことを、さっさとばらしてしまうお前のほうがどうかしてるんだからな」
「だって、わらわが戦わないと、全員やられてしまうのじゃろ?」
「それはどうかな…」
「どういうことじゃ?」
「ま、俺も本気を出すってことだな」
「ふむ、じゃあお願いするかの…わらわも、別に力が戻ってきているとはいえ、微々たるものじゃからの…」
「へいへい。それじゃ、その腕は解除するのか?」
「もちろん、持続するだけで魔力を持っていかれてしまうのじゃからな」
「じゃ、最後にお願いだ」
「なんじゃ?」
「シバルをこっちへ投げてくれ!」
「おぬし…何を言っておるのじゃ?」
「いいから、こっちへ投げてくれ!」
「な、なんじゃ、よくわからんのじゃが、なんとなく嫌じゃ!」
「いや、お前は俺の命令は断れないはずだろ?」
「だが、断るのじゃ」
「なんだと、そのうじうじしているやつを投げろって言ってるだけだろ?」
「確かにうじうじはしておのじゃが、女子に対してそんなことをするというのは、さすがにおぬしの頭を疑うのじゃ」
「なんだと…」
ただ…
そんな俺とヤミの会話を聞いて、シバルは剣を構えていた。
先ほどまでと雰囲気が違うことを感じて、俺は怪我の功名だなと考えた。
「ただし…ヤミちゃん…」
「どうした?」
「なんなのじゃ?」
「もう少し強く言ってくれないと、ボクは興奮しないよ!」
「なんじゃ?」
「こうね、ボクを罵るときは回りくどい言い方じゃなくて、直接的にこう…目を見て、そしてボクのことはもう下僕を見るような目で見ながらでないと、認めません」
「うん?シバルの様子がおかしいのじゃが…」
「そんなことない、あれが普通だ」
「あれが普通なわけないじゃろう。あんなヘンタイみたな言葉を言うなんて、あり得ないのじゃ」
「そうか?」
「そして、おぬしは何をしておる?」
「そりゃ、装備を整えてるんだよ」
「女物の下着を被ることが、装備を整えることなどとは、わらわは知らなかったのじゃ…」
「ふ…長く生きているわりには知らないことが多いな!」
「もう、おぬしらがおかしいことくらいしか今はわからないのじゃ」
「ふ…これが俺たちの普通だ」
「なんなのじゃ…」
俺は女性もの…
アイラの下着を頭に被る。
ヘンタイということを隠すことをやめる。
今そう決めたのだから、ヘンタイに変身するときくらいは、格好よくやらないとな…
ブラジャーは頭にまだつけない。
これはタイミングが大事なのだ…
ヘンタイと思われるためには余計にな。
そんなことをしている間に、キメラが襲いかかってくるということはない。
キメラは攻撃を弾いたヤミのことを警戒している。
ただ、それもヤミの手が元に戻れば、なくなるだろう。
でも、俺のヘンタイとシバルのドエムがスキルとして発動したのだから、前衛として最強なのだ。
シバルは何かのボタンを押すと、俺に声をかける。
「ただし…それは、アイラ様の下着ですね」
「だったら、どうするんだ?」
「この戦いが終わったらボクに渡してもらいます」
「そんなことをすれば、俺がヘンタイになれないだろ?」
「でも、それをボクからアイラ様に返すことによって、ボクが叱られることができますから…」
「いい言葉だ」
「ただしこそ、吹っ切れましたね」
「お互いにな」
「なんなのじゃ、この意味のわからん会話わ…わらわは変なやつらの仲間になってしまったのじゃな」
そんなヤミの言葉を無視して、俺はシバルと目を合わせるとうなずく。
お互いに走り出す。
「うおおおおお」
「はあああああ」
急に同時に突っ込んできた敵に足して、キメラは予想通りの動きをする。
「ギャシャアアア」
「キシャアアアア」
虎の顔はシバルへ攻撃をし、俺には蛇の尻尾が向かってくる。
俺たちはすでに、お互いにスキルを発動している。
そんな俺たちに向かって、キメラとしての当たり前な攻撃で倒せるはずがない。
さっきまでの俺たちであれば、それでよかっただろう。
でも、今は違う。
スキルを発動したのならば、お前など敵ではないのだから!
蛇の噛みつきをかわすと、その蛇の頭に拳を叩き込む。
シバルはというと、盾で噛みつきを弾いて、同じように剣で頭を傷つける。
急に動きがよくなった俺たちに驚くように距離を取ろうとするが、俺たちはすでに間合いを詰めていた。
「行くぞ」
「はい」
「カイセイ流、一の拳、トルネードスター」
「聖騎士剣術、一の型、返し斬り」
俺たちはお互いの技で、キメラを倒したのだった。
そして、拳を突き合わせる。
どこか高揚して、頬を赤くした女性と下着を被った男という、戦いではありえないような光景になりながら…




