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魔法使いになれなかった俺はヘンタイスキルを手に入れた  作者: 美海秋
ヘンタイの敗北?

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103話

「本当に顔パスね」

「はい、さすがは最強の通行証というところでしょう」

「お姉ちゃんたち、すごいものを持っているんだね」


驚いたアイラに、シバルがもらったそれをしみじみと見ながら言った言葉にヤミちゃんも、それに同意する。

それについては俺も、驚きを隠せない。

さすがは、女王様の直筆サイン入り通行証だ。

そう、これは馬車と一緒にもらったものだ。

説明するまでもない、国にある町の検問を簡単に通過できるもの、それが通行証というものだ。

今回はそれも、女王様が直々に発行したものとなると、こちらが恐縮するほどのお辞儀をされて、町の中へと通された。

いいことは街と町との行き来が楽になることで、悪いところは変な注目をあびることだろう。

ちなみに、転売というか、偽装防止のために魔力を通すと何かが起こるらしい。

俺は魔力がないのでそれを見てはいないけれど、バーバルがそれを確認したらしく、見てはいけないものと言っていた。

どんなものかを簡単に聞いたところ、かなりの長い問題が書かれていたらしい。

なるほどな…

そういうことが好きなバーバルならまだしも、すでにやりたくもない勉強をさせられてしまっていた俺に対しては、見たくもないものだった。

そんなものを持っているということは盗まれることがある可能性も考慮して、バーバルが魔法をかけて今は管理している。

そんな通行証の話はこれくらいにしておいて、俺たちは宿屋を探すことにした。


「大きな町というわけではありませんから、あるのはここの二軒くらいですね」

「うーん、どう思う?」

「どうって、俺に聞くのかよ」

「当たり前でしょ、ここにいる男はただしだけなんだから、部屋割りなんかで一番重要になってくるのはただしの意見でしょ?」

「それはそうかもしれないが…シバルどう思う?」

「ボ、ボクですか?」

「ああ、こういうときの意見は頼りになるからな」

「えっと、その…」


シバルは、しどろもどろになった。

どうしたんだろうかと、俺は疑問に思っていたが、アイラから…


「ちょっと、二人とも仲良くなりすぎてるんじゃ…」


そんな声が聞こえる。

まあ、馬車の運転を教えてもらった仲だしな。

のんきにそう思いながらも、どちらの宿屋にするのがいいのかと迷っていたときだった。


「とう!」

「せい!」


そんな声とともに、男二人がそれぞれの宿屋から飛び出てくる。

かなり似た感じの見た目をした二人は顔を見合わせると、ちっと舌打ちをした後に口を開く。


「ワシは、この大家宿の店主だ。泊まっていきなよ旅人さん、こっちの宿よりも安くしておくぜ」

「なんの、ワシはこっちの大戸宿店主だ。そっちにはない、料理がうりの宿屋だ。旨いものがたくさんあるぜ」

「ふ…飯など別に宿屋で食わんでも美味しいものが食える食堂があるからな。それよりもこっちには大きな露天風呂があるんだ?どうだ、入っていくだろ?」

「まてまて、それなら露天風呂だってこっちにもあるぞ」

「あんな小さいの、入っていたら窮屈に感じるだろうが!」

「なんだと、確かにそっちよりも小さいがな、こっちには最近王都で流行ってきているサウナを完備しているんだよ」

「だったら、こっちだって王都でのみ飲める、ビールを置いてるんだ」

「なんだ?」

「おう?」


すぐに各宿のアピール合戦をしたところで、顔を突き合わせてがんの飛ばしあいが始まった。

なんか宿屋が似ているなと思ったら、こういうことか…

俺は、突然始まったアピール合戦のせいで何も言えないでいる他のメンバーになんと声をかけようかと思ったところ、今度は二人の女性がでてきた。

こちらは完全に瓜二つだ。


「「ちょっと、あんたたちお客さんの前で、何をみっともない喧嘩をしているの!」」

「すまない」

「ごめんよ」


完全にシンクロした女性二人の登場に、何かを言おうとした俺も言葉を失う。

女性二人は、そんな俺たちをみて、男二人にため息をついてから、謝ってくれる。


「すまないね」

「本当にうちのバカたちが…」

「いえ…」

「でも、この町に来たんだから」

「せっかくならどちらかの宿に泊まっていってな」


そう言葉にすると、店主の首根っこを掴んで引きずっていった。

なんというか、かなりパワフルな女性二人だ。

そんなことをのんきに考えていたら、ようやくみんなも緊張が解けたようだ。


「ど、どちらにしましょうか?」

「そ、そうね…」

「わらわはお腹がすいたのじゃ」

「えっと、わたくしはどちらでも…」

「俺は…」

「どちらでもっていうんじゃないわよ」


どちらでもいいと口にしようとしたところ、アイラにくぎを刺される。

く…

社畜時代に面倒くさくて、何を食べますと聞かれれば、なんでもか、どっちにしますかと聞かれれば、どっちでも、そのときの気分で…

なんて答えていたツケがきているというのか、気づけばそういうあいまいな返事をしてしまう体になってしまっている。

といってもだ。

そう、思い出せ、俺の知識。

女性に、どっちがいいかという言葉を言われたとき、女性はすでにどちらにするのかという選択肢が決まっているということを…

だから、ここで外れを引くということはできない。

よく、考えるんだ。

そう、俺はできる。


「あの、すみません…」

「おお、こっちに来てくれることになったのか?」

「それなんですが、少し提案がありまして…」

「うん?なんだ?」


俺は片方の宿屋に入っていた。

提案と聞いて、値引きやサービスのやり方をこうしてほしいという要望を口にすると思ったのだろう。

でも、このとき言いたいことは違っていた。

俺は手を前にすると、こすり合わせるようにして、低姿勢で声をかける。


「いえ、そのどちらの宿にも泊まれたなって…」

「あああん!」

「ひっ」

「辞めな!」


当たり前だが、すぐにガンを飛ばされてひるんだが、さっきの女性。

宿屋なので、女将さんが店主の頭をしばいてくれたので、店主の男は頭をさすっている。

あー、なるほど…

尻に敷かれるとはこういうことなんだな。

そんなことをしみじみと感じていると、女将さんが営業スマイルで話かけてくれる。


「それで、さっきの話は何をしようとしていたんだい」

「えっとなんですけど、お宿ってこちらの二軒しかないんですよね」

「そうねえ。この町だとここの二つしかなくて…まあ、知っての通り、おバカ二人が喧嘩ばかりでねえ」

「いえ、それはあるかもしれませんが…ご提案がありまして、中を見せてもらっても大丈夫ですか?」

「いいわよ」

「え?」

「いいわよね、あんた!」

「はい」


何かを言おうとした店主はすぐに女将さんによって黙らされる。

教育が行き届いているな。

そんなことをのんきに考えながらも、俺は宿屋を案内してもらうのと同時に、女将さんにお互いの宿について聞くことにした。


「えっと、この大家宿と大戸宿にはどんな違いがあるんですか?」

「そうねえ。簡単に言えば、専用の石窯があるのが大戸宿で、そこでのピザという名前のものや、石窯を作るときについでに作ったサウナも人気ねえ。わたしたちの大家宿では大きい冷蔵庫というものがあるから、そこでキンキンに冷やした飲み物や、アイスと呼ばれるものもわたしたちの宿でしかだせないという感じねえ」

「なるほど…お互いに同じものは入れてないんですね」

「そうなるのかしらねえ。このおバカ店主たちがお互いに対抗しあって、あっちにはないものを導入するって聞かなかったせいで、いいことは今日はこっちに、明日はこっちでという感じで泊まっていってくださる人が多いことねえ」

「そうですか」

「それで?こんなに話をさせたんだから、何かいいことを思いついたのかい?」

「そうですね。もし、俺の言葉で納得していただけるのなら、それを試してほしいと思いましてね」


俺はそう口にすると、最初から思っていたことを口にする。


「どちらの宿も使える券を売りませんか?」

「どちらも使えるだあ?」

「うるさいねえ」

「す、すまない。だが、この大家宿とあいつの大戸宿を一緒にするっていうんだぞ、あり得ないとはならないのかよ」

「そうねえ。まずは、この人の話を聞いてから、考えてもいいんじゃないのかしらねえ」

「そ、それはそうだが…」


戸惑った様子でそう口にする。

確かに気持ちはわかる。

初めて来たお客に、どっちの宿に泊まるのかと聞かれたら、どっちも泊まりたいと言い出したのだ。

それもライバルの宿屋に…

でも、考えてほしい。

確かに露天風呂はいい。

その後のビールも最高だろう。

でもだ…

サウナが終わった後にのむ、キンキンに冷えた炭酸や、ピザと一緒に飲むビールというのもまた、格別に美味しいのだ。

熱々の美味しい食べ物と、キンキンに冷えた飲み物。

それだけで、俺たちは至福の時間を得られるというのであれば、ここで交渉するのも間違ってはないはずだ。

だからこそ、俺は熱弁した。

いかに熱々のものと、キンキンに冷えた飲み物を合わせると美味しいということを…

あとはいろいろなお風呂に入る楽しみというものが増えれば旅の疲れというのも、さらに緩和されるということ。

それに後は、お互いに魅力を聞いただけでも泊まりたいと思ってしまうのに、同時にできないのが寂しいということを…

するとどうだろう。


「わ、わかったが、少し待て…」

「どうかしましたか?」

「そのピザってやつは、そんなにうまいものなのか?」

「気になりますか?」

「いや、そういうわけじゃないんだが…」


店主の男がそう言うが。気になるというのは顔を見ればわかった。

こんな初対面な男がわかるくらいなので、女将さんはすぐに気づいたようで、お店の奥からあるものを持ってくる。


「あんた、これがピザだよ」

「こ、これがそうなのか?どうして、お前が?」

「だって、あんたに下手な人がオススメできないでしょ?」

「それはそうだが…」


そこで、女将さんがピザを渡してくれる。

女将さんはよく似ていると思ったが、どうやら二人は仲がいいみたいだ。

そんなことを思いながらも、俺は店主がピザを食べるのを見た。


「こ、これは!」


そうして、俺たちは…

二つの宿屋を行き来できるものをもらったのだった。

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