102話
「へえ、可愛いわね」
「お主もな」
「そう?」
「そう思うのじゃ」
「ただし、私可愛いって!」
「へいへいわかったから、まずはご飯をちゃんと食べろよ」
「そうですよ、アイラさん。少し行儀が悪いです」
「ちょっと、さっきのことがあったからって、バーバルその言い方は…」
「何か?」
「別に…」
さっき荷台で何が起こっていたのだというのか…
二人の仲が少し悪くなっている。
まあ、なんとなく見えた感じではアイラが、バーバルのことを押しのけて降りていた気がしたので、そのせいなのかもしれない。
そう思っていると、アイラからが小さな声でいう。
「だって、胸で窒息すると思ったんだもん」
「そんなことありませんのに…」
それに対して、バーバルは残念そうに口にする。
ちなみに先ほど出会った幼女と俺たちは食事もともにしている。
というのも、幼女の探し物があるという場所が、俺たちがこらから向かう場所とほど近い同じだったからだ。
それにしても、話し方はのじゃの幼女か…
俺が知っている物語だと、かなり怪しい感じがするな。
まさかの抜け出してきた、レメじゃないよな?
そんな考えが頭をよぎったときだった。
「ギャギャ」
そんな声とともに、ゴブリンがこちらに向かって走ってくるのが見える。
ご飯中ということもあり、誰が対応を行うのかを考えながら目配せを行う。
といっても、俺とシバルは先ほどゴブリンと戦ったので、必然的にアイラとバーバルのどちらかが戦う感じになったのだけど、先ほどのバーバルを突き飛ばしたことと、ご飯を一番に食べ終えたというところからアイラになった。
「あのとき雷に打たれたこのこん棒も、ようやく返ってきたしね。私が戦う」
立ち上がりながら、そう言葉にすると腰から伸縮する棒を取り出し、いつものように伸ばす。
実はさらなる改良を加えたらしい。
迫ってくるゴブリンに対して、アイラはすぐに突きを放つ。
それもかなりの速度のものを連続で…
やめてあげて、一瞬でゴブリンのヒットポイントはゼロだよ!
ちょっとゴブリンがかわいそうだな。
そう感じるくらいには一瞬でボコボコにされたゴブリンは倒れた。
「ふう、食後の運動にもならないわね」
アイラがそんなことを口にする。
そんな中で、俺はこの奇妙な出来事に、疑問を覚えていた。
というのも、今確かに俺たちは食事を行っていた。
傍から見れば、油断している状態に見えなくはないが、それでも全員が一つに固まっていることから、攻撃するにしても魔法をここに向かって飛ばすとか、一網打尽にするやり方をするのならわかるが、襲ってきたゴブリンは一体で、それも近接武器である木の棒を持っただけのやつだ。
しかも、隠れるとか森で隠れて近づいたところをというものではなく。
こんな見つかりやすいところで襲ってきたのだ。
あまりに無謀すぎると思う。
アイラが食後の運動にもならないというのもうなずけるくらいには、何がしたいのかわからない戦いだった。
今はまだ日も高いので、襲ってくるなんてことはそうそうありえないはずだというのに、あり得てしまっている。
どういうことなんだ?
理由がわからないが、何かが起こるというのだろうか?
頭に考えを巡らせていると、気づけば全員がご飯を食べ終えていた。
簡単に洗い物を終えると、俺たちは馬車に乗り込んだ。
変わらず、シバルが運転する形で乗り込む。
拾った幼女は、幼女なので、あまり場所をとるというわけではない。
それでも、やはり質問攻めにされることは仕方ないのかもしれない。
「へえ、それでヤミちゃんは一人であそこにいたってことなんだね」
「そうなのじゃ、お母さまたちの目を盗んで探しにきたのはいいのじゃけど、地図をなくしてしまって、どこかわからなくなってしまっていたのじゃ。そんなときお主らが助けてくれたというわけじゃな」
「なるほどね。それなら私たちと一緒に行くってことで問題はないわね」
「はい、その方が安全ですからね」
「ありがとうなのじゃ」
そうヤミちゃんは言いながらも、バーバルの膝上にいた。
しっかりと幼女という利点を生かしておっぱいを頭の上にのせている。
幸せそうにぽよぽよとしている感じだ。
動きにしっかりと規則性があった。
そこで、俺は気づく…
こいつ、わかってやっているな。
そう考えて、幼女のほうを見ると誇らしげにニヤリと笑っていた。
でも、そんなヘンタイとしての意識が高い俺とは違い、バーバルたちは完全に幼女の見た目をしたヘンタイ行為をしている存在に気づいてはいない。
そこで俺は気づく、わかってやっているということはスキル影響で、あの姿になっているというのか…
そのスキルの名前は女体化、もしくは幼女化なんてものがあるとすれば、油断している少女たちにセクハラし放題という、童貞としては最高にいい暮らしができるという事実に俺は愕然とした。
なるほどな…
これが初めての敗北感というものなのか…
俺は幼女に敗北を味わいながらも、平静を装うという高等技術を用いりながら、馬車に揺られる。
途中で何度かの行商とすれ違いながらも整備された街道を走っていく。
あれからゴブリンとも出会うこともない。
順調とはこのことだ。
時間もたっていくにつれて、心地よい揺れなのか、お腹がいっぱいになったからなのかはわからないが、運転を行うシバル以外が眠りについていた。
手持ち無沙汰になった俺は、シバルの横に座ることにした。
「ただしですか、どうかしましたか?」
「いや、みんな寝ちまったからな」
「そうですか、移動中に少しゆっくりする時間も必要ですからね」
「そうだな」
「ただしは寝なくて大丈夫ですか?」
「ま、なんというか、シバルを一人残して寝るわけにはいかないからな」
「そうですか…」
俺はこの染みついた癖に、やれやれと首を振る。
よくある、運転手が一人起きている状況では誰かが寝ないで起きて話をし相手になるという暗黙のルールがあるからだ。
その癖がいまだに抜けずにいるので、どこか眠りにはつけなかった。
それならば、こういう時間にやりたかったことをしておくというのもいいものだ。
俺はシバルにあるお願いをする。
シバルも、そんな俺のお願いを快く引き受けてくれた。
すぐにそれが始まる。
「そうです、もっと強く」
「こうか?」
「いえ、そこはもう少し優しく」
「こうか?」
「そうです、傷はつけないように、ですが少しの力を込めて叩くのです」
「オッケー、こういうことだな」
「はい、センスがいいですね」
「だろ?」
シバルに指導を行ってもらうという形で、二人でいい汗をかいていた。
さすがに初めてということもあり、シバルに手取り足取り教えてもらっている感じだ。
鞭のようなものを持ち、しっかりと叩くことによって、シバルは喜び、俺も嬉しそうなシバルを感じて喜ぶ。
いい経験というものはこういうことを言うのだろう。
さらに数度同じように行う。
「ただし、やっぱりセンスがあるかもしれませんよ」
「そういうものなのか?」
「はい、当たり前じゃないですか、傷をつけないながらもしっかりとした鞭さばき、さすがです」
「そんなに褒めるなよ。もっとしたくなるだろ?」
「そうですね。タイミングをあわせてもっとやれば、喜ぶので、あわせてやってみましょうか」
「おお、そういうのもあるんだな」
「はい、タイミングを合わせることで、さらなる力がでるかもしれませんからね」
「勢いが増すってことか」
「はい」
そうして、俺はシバルに教わった。
そう、馬車を扱う方法を…
決してエロいことではない。
さすがに、シバルがドMだとしても、こんなところで鞭で叩いてなんてことをしてしまえば、命がないということはわかっていた。
まあ、馬車の操作方法を覚えるというのは、シバルにもしものことが起きたときに必要なのだ。
だから、誰かが覚えればと考えたのだが…
この中では、たぶん俺が覚えるのが一番手っ取り早いと思った。
こう見えても、完全に別物だが車の運転は長くしていたのだ。
あとは自転車とか…
うまく使うことで、交通の手段として日常に使うことができたのだから、この世界では馬車を扱えるようになっていれば、移動手段と速度が各段に上がるのはいうまでもない。
それに俺はコツを覚えることができれば、できるという謎の自信があった。
結局は、ヘンタイスキルのおかげなのか、せいなのかはわからないが、鞭の扱いはかなりうまいらしく、気づけばシバルの隣で一緒に話しをしながらも目的地までの道のりを俺が馬車を扱って、進んでいったのは言うまでもない。
ちなみに二人で話した内容は、簡単に料理の話だ。
休みをもらっていた数日のうちに、王都内で食べ歩きをしたので、その中でどこのお店が美味しかったのかなんかを話し合った。
そうして、気づけば、最初の目的地である町についていた。
今日はここで泊まることになっている。
町につくころには、全員が目を覚ましていたのは言うまでもなかった。




