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劇的ビフォーアフター






 次の日の朝。

 朝食を食べてやる気に満ちた私は腕を組み、屋敷中のおどろおどろしいものたちを曇りなき(まなこ)で見定めていた。


 ……よし。何一つとして飾っておきたいものはない。


「鎧も絵も全部宝物庫に仕舞ってもらっても良いでしょうか!」

「もちろんです」


 頷くハーマンが手で合図をすると、控えていたフットマンたちが手早く動く。


 その絵や鎧を運んでいくフットマンたちの背中を見つめながら、私は呪いの部屋みたいになるんだろう宝物庫を想像した。絶対に迷い込まないようにしよう。


 ちなみに昨日案内してもらった宝物庫はほぼ空っぽで、宝物庫という名前を物の見事に裏切っていた。


 もしかしたら公爵家、本当は貧乏なのでは……? と一瞬思ったけれど、ハーマン曰く絶対にそんなことはないらしい。単にアルバート様の情緒がないのだろう。ないからこそ、あの性格なのかもしれないが。




「ヴィオラ様、美術商が参りました」

「ヴィオラ様! 造園家からデザイン案が十数枚届きました」

「ありがとう! すぐに向かうわ。デザインは私の机に置いておいてくれるかしら」


 知らせてくれた侍女たちに微笑んで、私は急ぎ足で美術商の待つ部屋へと向かった。

 四時間後には、カーテンや絨毯やその他諸々を揃えるために王都で一番有名な商会の会長がこちらに来ることになっている。その後は造園家がやってきて、渡されたデザインについて話し合い明日から作業に取り掛かる予定となっている。


 何せ情緒の欠けた夫が帰ってくるまであと十三日しかない。何を言われてもハイハイ受け流せる自信はあるけど、妨害されたら勝ち目はないので何が何でも帰ってくるまでに模様替えは終わらせるつもりだ。


 なんだか勝手に勝負してる気持ちになってきて、アドレナリンが体中で沸き立っている。






 全ての予定を終えた私はご満悦で、決まった庭園のデザイン案を見ながら食後のお茶を楽しんでいた。


 今日一日付き添ってくれたハーマンが淹れるお茶はとてつもなく美味しい。

 それから忙しくてパンパンになった足を、私付きの侍女となったローズマリーという綺麗な赤毛の侍女と、パメラという金髪の巻毛の侍女がマッサージしてくれている。次期公爵夫人、申し訳ないほどに贅沢すぎる……。



ーーとんでもなく楽しい。



 人のお金で食べる焼肉ほど美味しいものはないと聞いたことがあるけれど、同じように人のお金でする模様替えほど楽しいものはないかもしれない。


 今日は美術商からも商会からも爆買いをし、今までの人生で使ってきたお金を全て合わせてもお釣りが出るくらいのお金を使った。


 まあちょっと怖いのは、そのお金が全部私のお小遣いで賄えちゃうってことなのだけど……。


 そう、人の金と言ったけれど、今日の出費は全て公爵家から渡された私のお小遣いで買ったのだ。


 ハーマンは公爵家のお金から出すと強く強くすっごく強く主張していたけれど、今回だけは自分のお小遣いから出すことにした。理由は単純に、帰ってきたアルバート様からの突っ込みを減らしたいことと、お小遣いとして提示された金額が多すぎたから。目玉が飛び出るかと思ったわ。


 そういえば最初に好きなだけ宝石を買えと言っていたけれど、鉱山ごと買えという意味だったのだろうか。さすが王国序列第一位の公爵家、太っ腹。まあ今後こんなに使うこと絶対ないと思うけどね……。



 それにしても明日から、芝生しかないこの庭園が変わっていくのが楽しみで、今からとてつもなくうきうきしている。


「あ、そうだ。ハーマンの言う通り、庭園には薔薇を植えるのをやめました。他の良い香りがするお花をたくさん植えてもらうことにして」

「ありがとうございます。アルバート様もきっとお喜びに……」

「なると思いますか?」

「…………お気遣いに感謝されるかと」


 しなさそうだな……。



 実は造園家がくる前に、私は事前に渡されていた幾つかのデザイン案を眺めながら、庭に薔薇を植えた方が良いのかな、と悩んでいたのだ。

 薔薇はどこの貴族の庭園にもある鉄板の花である。


 しかしアルバート様は氷の薔薇と呼ばれている。


 植えてもいいけど、万が一「俺のことを思って植えたんだな……やれやれお前のことは愛せないのに」とか言われたら悔しすぎて憤死してしまう、そんなことを思いながらハーマンに薔薇を植えた方が良いか聞いたとき、彼は柔らかく微笑んで言ったのだ。


「……薔薇は、植えない方がよろしいかと思います。アルバート様が苦手ですので」


 なるほど……。

 確かに私だったら、氷の薔薇って二つ名はちょっと……いやかなり恥ずかしいかもしれない。


 私は花に例えられるような柄ではないけれど、貞淑の白詰草とか情熱のマリーゴールドとか例えられたらとても辛い。そのお花を見るたびに、羞恥心が蘇ることだろう。


 ……お花を嫌がらせに使うのもねえ。

 ということで、めでたく庭には薔薇を植えないことにしたのだ。


 あと一つ気になることと言えば、湖の側の木がたくさんあるところ。あそこは手をつけてはいけないのだそうだ。怖いので深くは聞かず、何も考えないこととする。



 とにかく模様替えも進んでるし……あと、やりたい事と言えば……。



 私はマッサージをしてくれるローズマリーとパメラを眺めて、ニヤリと笑った。







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