【コミカライズ連載開始記念SS】アルバートが欲しいもの
パルシィさん(https://palcy.jp/)にて本日からコミカライズが連載開始となりました!
コミカライズの記念SS、結婚して二度目の冬のお話です。
本格的に冬が始まろうとしている、ある日のことだ。
「寒いですねえ」
「ああ」
健康のために冷えは大敵だととんでもなく厚着をしている妻のヴィオラと共に、同じくいつもよりも厚着をさせられているアルバートは、すでに冬支度を整えている庭園を歩いていた。
こうして二人で庭園を歩くことは、思いが通じ合ってからの日課となっていた。
春や夏に比べると色が足りないように思う庭園を、ふんふんと鼻歌を歌いながら、楽しそうにヴィオラが歩く。
「こんな日は落ち葉で焼き芋なんてしたら最高そうです!」
「……焼き芋?」
焼いた芋のことだろうが、落ち葉とは。
不思議そうな顔を見せたアルバートに、ヴィオラが得意げな顔をする。
「焼き芋をご存知ない! 仕方ないですね、教えてあげます!」
そう言いながら『さつまいも』なる赤紫色の芋を、落ち葉で焼く料理があるのだと熱弁する。
しかし説明を終えたあと、ちょっと寂しそうな、少し悔しそうな顔でヴィオラがふう、とため息を吐いた。
「まあ……私も本? で読んだことがあるだけで、食べたことはないんですけどね……この国にはさつまいもがありませんので……というかだったら旦那様も知っているわけないですよね……」
その言葉にアルバートは、どうにかして『さつまいも』を探し出そうと心に決めた。
手に入れるあれこれを頭の中で算段しつつ、また他の話題を話し始めたヴィオラと談笑していると、急にヴィオラが「ふふ」と笑った。
「どうした?」
不思議に思って尋ねると、ヴィオラはにこにこと笑いながら、「なんだかすごく幸せなので、冬が来るのが嬉しくって!」と言った。
「私、今まで冬って寒いから他の季節よりも少し好き度が低かったんですけど……今は、すごく大好きです」
ちょっと照れ臭そうにアルバートを見ながら、ヴィオラがアルバートの手を取って、ぎゅっと握った。
「だって、冬は私が旦那様を好きになって……旦那様が、私を好きになってくれた季節ですから!」
「…………!」
心臓が破裂するかと思った。
どんどん熱くなっていくアルバートの顔を見て、ヴィオラの顔もどんどん赤くなっていく。
「あっ……あとは、私はこう見えても意外と物知り博士ですのでっ、外国? の行事はいっぱい知っていて……」
恥ずかしさに耐えかねたのか、ヴィオラが話題を変えようと早口で、アルバートの知らない外国の行事について説明をし始めた。
柑橘を入れた風呂に入るとか、大好きな人にチョコレートを渡すとか、良い夫の元には夜寝ている間に『サンタ』という名の老人がやってきて、枕元にプレゼントを置いてくれることだとか。
話しているうちに恥ずかしさを忘れたのか、ヴィオラがにこにこと屈託なく笑う。
「ということで今年の冬は、旦那様の元にサンタさんがやってきてくれますよ! なにせ旦那様はとても良い旦那様ですからね。欲しいもの、考えておいてくださいね」
おそらくヴィオラがプレゼントを用意して枕元に置くのだろう作戦のかわいらしさに、また胸が締め付けられる。
気づかれないよう深呼吸して衝撃を堪えつつ、アルバートはその日までに山ほどのさつまいもを用意しよう、と心に誓う。枕元に置いておいたら、きっと彼女は喜ぶはずだ。
落ち葉にさつま芋を入れながら、いつ焼けるのかとわくわくする横顔が、目に浮かぶ。
その光景を想像して思わず頬を綻ばせるアルバートに、「旦那様?」とヴィオラが目を輝かせて首を傾げた。
「つい微笑んでしまうほど、欲しいものがあるんですか? 一体何を?」
どうやらヴィオラはアルバートの微笑みを、欲しいものを想像してのものだと考えたらしい。
「教えてください! 私、お願いしておきますので!」
(――どうして彼女は、こんなに私を幸せにしてくれるのだろう)
答えをわくわくと待ち望む彼女に、こみあげる気持ちが微笑となって浮かび上がる。
「……欲しいものが、一つある」
そう言いながら繋いだ手に力を込めて、そっとヴィオラの耳に唇を寄せた。
彼女の名前を、呼ぶために。
パルシィさんでは今1話の3まで無料で見れます!
コミカライズ担当の石沢うみ先生による超々美麗なアルバートとヴィオラ、ついうっとりとしてしまう美しさですので、ぜひぜひご覧頂けると嬉しいです…!
ちなみに私のTwitter(satsuki_meiii)では1話の1まで試し読みができるプレスリリースの記事も読めますので、もし先にキャラデザが見たい…という方はそちらもぜひ…!





