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長い一日/アルバート視点②

ギリギリ(?)アウトで遅くなりすみません…!

アルバートの心情回です!

 


 王城から戻ったあと。

 アルバートは今何故か、ヴィオラの部屋でブランケットにくるまって本などを読んでいる。


 昼間から働きも勉強もせず、ただ本を読むことなど初めてだった。


 しかしその本の内容などちっとも頭に入らないままーー、アルバートは、いつの間にか、自身の膝で眠っている妻に目を落とす。



 本を読んでいたはずのヴィオラは、ほんの十分、二十分ほどで船を漕ぎ出した。

 かっくんかっくんと動く頭がアルバートの肩に乗ったかと思うと、そのままずるずるとずり落ちて、最終的にはアルバートの膝の上で落ち着いてしまったのだ。


 疲れていたのかもしれない。二度寝が好き! と言っていた彼女は、最近アルバートに付き合って早起きをしていたようだったから。


(……私のために、そんなことをしなくても良いのに)


 安らかに眠るヴィオラの耳に届かないよう、静かに重い息を吐いた。



 ◇



 やはりどんなことがあっても、妻を迎えるべきではなかった。

 ヴィオラがこの屋敷に嫁いできてから、何度そう後悔したかわからない。



 彼女は、アルバートの予想を裏切り続ける人だった。


 新婚の慣例を無視し、別邸から帰った日。自分と結婚したことを彼女は嘆いているだろうと思いながら帰宅したところ、彼女は庭師と一緒に談笑しながら、一生懸命に土に花を植えていた。


 からりと乾いた、夏の日差しのように晴れやかな笑顔で。


 そうして話していたのは、おそらく自分の幼少時代の話だ。思わず「何をしている」と強い口調で問い詰めると、彼女は何も気にした様子もなく、飄々とアルバートをいなした。


 それからも彼女は、アルバートの度肝を抜き続けた。


 庭や屋敷ががらりと変わった。贈り物です、と渡されたのは今まで見たことがないような奇妙なデザインの物だった。


 毎日心から幸せそうな顔で食事をしていた。不幸の元凶だろうアルバートに自分の好物を渡し、何の見返りも要求せずににっこり微笑んでアルバートを真っ直ぐに見た。


 ルラヴィから嫌味を言われても困ったように微笑むだけで、人当たりは良いが内心は懐疑的なエセルバートを、あっさり心から笑わせた。


 自分が落ち込んでいるにも関わらず、寒いだろうと自分のマフラーをアルバートの首に巻いた。


 あんなに楽しみにしていた舞踏会では、アルバートのために嫌味を言われて、彼女は唇を噛んで俯いていた。事件が起こり努力が無駄になったにも関わらず、彼女はただただアルバートのことを心配していた。


 それらは、全てアルバートが原因だったのに。


 なのに今、彼女はお人好しにもあれをしようこれをしようと毎日アルバートの元へやってくる。チャレンジ自体が楽しいとでも伝えるように、屈託のない笑顔を向けながら。


 こんな彼女をどうして、大切だと思えるだろう。



 いつの間にかそろそろ彼女がくる時間だと、時計を見ては待っている自分に嫌気がさしている。


『ヴィオラ嬢が目の前からいなくなった時のことを想像してみてくれ。どうだ?』


 エセルバートに言われなくとも、アルバートは毎日のようにヴィオラがいつか離れることを考えていた。

 彼女は自分のそばにいてはいけない人だと、もう随分前から思っていた。



『旦那様!』


 彼女の冬の曇り空のような瞳を目にするたびに、アルバートは何故か幼い頃を思い出す。

 かつて飽きもせずに自分にじゃれついてきた犬に似ているからだろうか。屈託のない笑顔が、満開の薔薇に似ているからだろうか。


 関わるつもりがなかったのに思わず受け入れてしまうのは、きっとそのせいなのだろう。


(……ああ、そうか。彼女は似ているのか)



 かつて、自分が失くしたものたちに。



 もう一度ヴィオラに目を落とすと、彼女はすやすやと深い寝息を立てていた。


「……膝枕されているのは、君じゃないか」


 さらりと頬にかかる茶色の髪をそっと指先で掬うと、くすぐったかったのか彼女は眠ったまま「ふふ」と笑い、またくうくうと寝息を立てる。


 あまりにも平和そうに寝ているので、起こそうにも起こせない。

 安心しきったその様子を見て、思わずふっと頬を緩めかけてーーこみ上げてくる感情に息が詰まった。


 いつだって、光の下で笑ってほしい人だと思った。



 指先で掬った髪を離せないまま、アルバートはずっとその寝顔を見つめていた。







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― 新着の感想 ―
それをね、幸せというんですよ。
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