結婚に至った理由
私が、王国序列第一位のフィールディング公爵家に嫁ぐことが決まったのはつい半年前のこと。
フィールディング公爵家の当主様――アルバート様のお父様が、病に倒れたことがきっかけだった。
見目麗しく聡明な次期公爵のアルバート様には、謎なことに婚約者も恋人もいなかった。
御年二十歳。日々国内外から山のように縁談が持ち込まれていたらしいのだけど、アルバート様は釣書を見ることすらなく全てお断りなさっていたらしい。
それを大層心配したのが、病に臥せった公爵様だ。
高位貴族には珍しいロマンチストな公爵様は、『いずれ息子も運命の人に出会えるだろう、結婚は本人に任せる』と見守っていたそうなのだけど、自身が病を患った今息子が幸せになるまでは死ねんとある迷惑な決意をした。
その決意とは『アルバート様が公爵位を継ぐ条件として、自分の古い友人であるグレンヴィル伯爵家の娘との婚姻を命じた』ことだ。
グレンヴィル伯爵家の娘とは、お気づきの通り私ことヴィオラである。
初めてその話を聞いた時は冗談でしょうと笑ったし、冗談じゃないとわかると何のドッキリかと疑ったものだ。公爵家に何の得もなさすぎる。
自慢じゃないがグレンヴィルは一応高位貴族ではあるものの、財力も存在感も家柄もパッとしない凡庸斜陽伯爵家。
そしてその娘である私も、ありふれた栗色の髪にぼんやりした灰色の瞳。顔立ちはまあまあそこそこだと思うのだけど、氷の薔薇様の前では悲しいほどにモブだと思う。
唯一私に平凡じゃないところがあるとするならば、幼い時から前世の記憶を持っていることだろうか。誰にも言ったことはないけど。
私の前世は日本という国で人生の殆どを病院のベッドの上で過ごした病弱な少女だったので、前世の記憶が役に立ったことは一度もない。
強いていうなら健康なこの体がありがたすぎて、多少の出来事には打ち勝つ自信があることだろうか。
とはいえ前世は耐えに耐え抜いたので、今世ではアグレッシブに困難や理不尽に打ち勝っていきたい所存である!
そんな私にとって、夢のような玉の輿であるアルバート様との結婚は……どちらかといえばハズレに近い。
トップに立って偉そうに振る舞うよりも、貧乏でも毎日自由に川で遊んだり山に登ったり街に出かけたりしてみたかったから……。
話が逸れた。
とにかく、気の重すぎる結婚とはいえ、我が家が公爵家からの申し出を断れるわけがない。断れたとしても「あの時約束した通り、娘が親友の息子の妻になるとはな……」と遠い目をしてロマンに浸る父が断る筈がない。多分父と公爵様はロマンス仲間なのだろう。
ということで私とアルバート様の誰も幸せにならない結婚が急遽決まった。
決まった以上は気が変わらない内に、ということで顔合わせもないままに慌ただしく式が開かれ、初夜のあの惨事を迎えたというわけだ。