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シンデレラ視点~なぞかけ~

ある日やってきたネズミさんは、私の生活に明るさを与えてくれました。

なにか特別用事がない限り屋敷から出ることを義母から許されていない私に、初めて出来た話相手です。


ネズミさんが来るのはなぜか決まって、夜の20時から21時の間だけです。

私はその時間までに家事を終わらせ、20時になる前に寝巻きに着替えてベッドという名の藁の上で座って待つのが、ここ数日の習慣になっています。


ネズミさんは今日もきっかり20時の鐘の音と共に、屋根裏部屋の窓枠に姿を表しました。何やら大きい包み紙を背負っています。


「おっす!今日もやってきたぜ!今日は手土産にクッキー持ってきたよ」


「嬉しいです!数年ぶりのクッキーです!」


ネズミさんが持ってきた手のひらサイズの大きいクッキーからはバターの甘い香りがします。

ここ数年、食事はクズ野菜のスープと硬いパンしか許されていない身としては、贅沢すぎる品です。

前回はマフィン、前々回はビスケットを持ってきてくれました。どれも見た目と味も一級品で、こんな高級お菓子を手に入れられるネズミさんはきっと人間だった頃は身分が高かったのではと、以前聞いてみましたが口をパクパクして声が出せない様子でした。

どうやら魔法使いに自分の正体に関わることを話すことは封じられている様なのです。


包み紙からクッキーをとりだし、いつものように半分に割ってネズミさんに渡し、もう半分を自分用に取り分けました。

ネズミさんは初めは半分こを断り、私1人で食べるように促しましたが、「一緒に食べると2倍美味しく感じるから」という私の我儘を叶えてくれて、今ではおしゃべりしながら一緒に食べてくれます。

ネズミの体にお菓子は毒にならないか心配していましたが、大丈夫なようです。魔法とは不思議な仕組みです。


「そういえば、シンデレラはなんで屋敷の外で働かないんだ?」


ネズミさんがクッキーをポリポリ前歯で頬張りながら、私に言いました。


「義母に昔お願いした事があるのですが、『お前なんかに外で働けるわけが無い、どうしても働くならお前の飼っているロバと鶏とヤギを殺す』と言われてしまい、バッファローゴローとファーストチッキンとメーちゃんを殺される訳にはいかないと思いまして、でも転んでもタダでは起きないのが私です。ちゃんと17歳まで家で働けば、外で働いていいと約束も取り付け····」


「待て待て!ネーミングセンスが凄すぎて話が頭に入ってこなかった!えーっと、ロバの名前が?」


「バッファローゴローです」


ネズミさんは何故か慌てた様に、手をバタバタさせて私に問いかけます。


「なぜに、ロバなのにバッファロー?」


「強そうだからですよ?」


「なぜに、ゴロー?」


「語呂が良かったからです!」


ネズミさんは、なぜか頭を抱えてしまいました。


「ファーストチッキンはもしかしなくても、鶏の名前?」


「その通りです!」


「じゃあ、ヤギがメーちゃんな訳だ。なんでヤギだけ普通!?」


「メーちゃんは父が名付けてしまったのです。本当は私は、エクストリームエクスカリバーと名付けたかったのですが·····」


「どこの聖剣の名前だよ!!ははっ!シンデレラのネーミングセンス半端ないな!!はははっ!!」


ネズミさんが、小さい手でお腹を抱えて笑います。こんなに明るく笑ってもらったのは、お父さん以来で、私は楽しくなってきました。


「あの。良かったら、ネズミさんにも名前をつけていいですか?ネズミさんの本名は、魔法使いに封じられて教えて頂けないようですし·····」


「そうだね。ちょっと恐いけど、嬉しいよ!じゃあ、何か名付けてよ」


ネズミさんが期待に満ちた目で見上げてくるので、気合が入ります。


「そうですね·····私にとってネズミさんは光のような生活を明るくしてくれる存在なので··········ブライトニングシャイニングアタックとかはいかがでしょうか?」


「ぶはっ!最終奥義の技名かよ!ってか、長ぇよ!はははっ!ははははは!」


ネズミさんは、ツボにハマったようで笑い続けてます。確かに、長いのは会話する時に困りますね。


「じゃあ、短くしましてネズッチさんとかはいかがでしょうか?」


「うわぁー、そうきたか!そんな呼ばれ方したら、なぞかけねばならないな!これから俺が何か言ったら『その心は』って返してくれよ」


ネズミさん改めネズッチさんは何だか、嬉しそうにしているので、ナゾカケとやらが何かは分かりませんが、私は良い名付けを出来たようです。

ネズッチさんは立ち姿勢で、小さい指を1本たててネズミ特有のキーキー声をはりあげて得意気に私に言います。


「えー、シンデレラとかけて、生まれてから1度も髪を切ってない人と解きます·····」


「その心は?」


「どちらも『けなげぇ』でしょう」


「··········」

「··········」


ネズッチさんが来ている時に屋根裏部屋がここまで、静寂につつまれたことはかつてありません。

ネズッチさんは床に手をついて項垂れてしまいました。私は慌てて声をかけます。


「あの!わかります!『毛が長い』と『健気』の言葉が似てるということですよね」


「やめてー!解説しないでー!傷口に塩を塗り込む行為だから、それー!」


「違うんです!面白いです。あの、反応できなかったのは、私の事を健気なんて言って頂けた事に驚いてしまって··········恥ずかしくて、嬉しくて声が出なくなってしまったのです」


ネズッチさんは項垂れていた顔を上げて、私の耳まで赤くなっているであろう顔を見つめて、嬉しそうに微笑んでくれたのでした。


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