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転んでもタダでは起きないシンデレラ  作者: 夕景あき


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10/15

ネズッチ視点~前世の記憶~

その日は、人生で1番ツイてない日だった。


朝から高校受験の結果発表のため、本命の高校に張り出される受験番号を見に来た。だが、何度番号を見返しても、俺の番号はなかった。

俺は、喜ぶ隣の人達を尻目に、母親と父親にそれぞれLINEで『落ちてた。滑り止めの高校への入学が決まったよ』と送った。


すると、同時に返信が来た。

母親からは『七転び八起き!』

父親からは『人間万事塞翁が馬!』

とそれぞれのLINEに返ってきており、俺は

『なぐさめ方、似たもの夫婦かよ!』とそれに返信して、憧れだった高校を後にした。


すぐに家に帰る気分にならなくて、俺はコンビニで少年週刊誌でも買って帰ることにした。『友情・努力・勝利』の世界に、現実逃避したかったからだ。現実は努力しても勝利するとは限らないから、無情だ。


コンビニの雑誌コーナーに行くと、女性誌の題名が目に飛び込んできた。

『シンデレラになる為の10の方法!』と、書いてある。

普段は気にならないが、朝砕け散っている俺のガラスのハートには、『シンデレラ』という単語は目に入ると痛かった。


年の離れた妹が好きだから、よくせがまれて絵本を読んでやるが『シンデレラ』が、そもそも俺は嫌いだった。


女の子的には元祖ざまぁな物語で、読んでて楽しいのかも知れない。

でも、男の俺からすると『シンデレラ』は王子様の身分と見た目につられてホイホイ結婚した、条件で男を選ぶ人の代表格にしか思えない。

『シンデレラ』を読むたびに、「王子様並にハイスペックにならないと、女子にモテないよ」と言われてる気分になる。


そして、高校受験に失敗してハイスペックから遠ざかった今の俺にとっては『シンデレラ』は地雷なのである。


俺は気分が悪くなってコンビニを出ようかと思ったが、何も買わないで出るのも悪いかと思い、店内を見渡すと『魔女っ子バビデ』とコラボしたビスケットの商品があった。

『魔女っ子バビデ』は妹が今ハマっている、日曜朝の幼女向けアニメだ。イタズラ魔女っ子のバビデが、お星様のステッキで人間を動物に変えてテンヤワンヤする話だ。

妹はクリスマスプレゼントでお星様の魔法のステッキを手に入れて、家族に向かって「犬になーれ」などとステッキを振って言ってくるので、俺らはしばらくワンワン言って過ごすはめになる。

俺は『魔女っ子バビデ』のビスケットをレジへ持っていくと、店員の茶髪のギャルっぽいお姉さんに、「マジかよ」と呟かれてイタイ存在を見る目で顔を見られた。「違うんです。妹のなんです」俺は内心で叫んだが、逆に言い訳がましいかと思い押し黙った。そうして既に砕けていた俺のガラスのハートは、店員のお姉さんに粉々にされたのだった。

店員のお姉さんの「ありしたー」という7文字くらい省略されてる挨拶に背を押されて足早にコンビニを出ると、外は曇天だった。


雨に降られるのは嫌なので、早足で家に向かうと、途中の公園でボールで遊んでいる5歳くらいの男の子が横目に入った。

「妹と同じくらいの年齢だな」と思い、なんとはなしに目で追っていると、ボールが道路に飛びだして男の子が追いかけて駆け出したのが目に入った。


「おいおい、危ねぇぞ!」


俺のイヤな予感は的中し、トラックが道路を走ってきた。

俺は考えるより先に体が動き、男の子を追って道路に飛びだし、最大限の腕筋を使い男の子を公園の方へ放り投げた。

公園の生垣の中に、男の子が放り投げ込まれたのが目に入ったと同時に、トラックのけたたましいブレーキ音と全身への衝突の感触と共に意識が途絶えた。

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