第9話
朝。
ローズは目を覚ます。
あれは夢だったのかも・・・
淡い期待。
「夢じゃなかった・・・」
がっくり肩を落とす。
ローズの指には、昨日の指輪が自らの存在を主張するかのように光っていた。
きらきらしたそれは、美しいアメジストがはめられている。
昨日の夜は、はめられたということに動揺しすぎて、じっくりと指輪を眺める余裕などなかった。
ローズだって、女の子。
綺麗な指輪を見れば、一人前にうっとりだってする。
深い紫色をしたその宝石は、見つめていると吸い込まれそう。
朝日を受けて、きらきらと輝く。
「綺麗・・・」
自分の左手の薬指を見つめて、ほうっとため息をつく。
けれども、その指輪はあのわけのわからない侯爵との婚約の証。
そう思うと、別のため息も出てくる。
「三歳の時に約束・・・なんて、したかなあ?私」
もう一度目をつぶって、思い出そうと頑張ってみる。
三歳のころのことなんて、もう記憶の遥か彼方。
結婚を決めてしまうほどの強烈な記憶であるはずなのに、考えても考えても思い出すことが出来ない。
あの黒髪と紺碧の瞳の・・・少年・・・
一度会ったら、忘れることなんて出来なさそうなくらいに、印象的だと思うのに。
そこまで考えて、ローズははっと顔を赤らめる。
これじゃあまるで、私、あの訳わかんない侯爵に恋してるみたいじゃない!!
ぶんぶんと首を振って、そんな考えをかき消す。
少女のころ夢見たおとぎ話の中に出てくるようなレディになるのは、結構大変そうだ。
訳の分からない婚約者は出てくるわ、ドレスを選びに行くのも一苦労だし。
そのときローズは大事なことを思い出した。
「お母さま!!」
事情を知っているであろう母に会うために、ベッドから飛び起きた。