第8話
「あら、ローズ、話はもう終わったの?」
そこには驚く人が呑気なお茶を飲んでいた。
「お母さま?!」
ローズは、ビックリする。
「どうしてここにいるの?!」
母は田舎の屋敷にいるはずだ。
田舎の屋敷から出た姿をローズは見たことがない。
「ここ、私の実家ですもの。
いたらダメなの?」
無邪気にふふっと首をかしげるこのひとは、ローズの姉といっても通用しそうだ。
「あなたに言い忘れていたことがあったのを思い出したから、追いかけてきたのよ?」
その微笑みは艶やかで、エドモンドがほうっとした顔で、うっとりと見つめている。
「シャーンブルック侯爵との婚約のことかしら?」
ローズは険しい顔をする。
「そうなの!
あれはあなたが・・・」
「さっき聞いたわ」
ローズが遮る。
その指には、はずし忘れた指輪が光る。
「まあ、さすがニコラスは話が早いわ。
なら、私は必要ないわね」
うふふっと嬉しそうに微笑む。
慌ててローズは指輪を外そうとするが、抜けない。
引いても押してもびくともしない。
「抜けない・・」
ローズは、真っ青になる。
「あら、ちょうど良かったじゃない。
それならなくさないわね」
ころころと笑う母が、天使の皮をかぶった悪魔に見えてきた。
母は、疲れたからと、さっさと自分の部屋に行ってしまう。
「とりあえず、私たちが婚約しているということは確認してもらえたみたいで良かった」
振り返るとニコラスが、にこやかにたたずんでいた。
ローズは、怒りのあまりふるふるしている。
「みんな・・・寄ってたかってなんなのよぉっ」
公爵夫妻もニコラスも、動揺する素振りもない。
エドモンドだけが、オロオロ。
「明日、また来るからね。
婚約者どの」
ニコラスは、鼻歌うたいそうな感じでエドモンドを連れて帰って行く。
ローズは、きいっと残された公爵夫妻をにらみつけようとした。
・・・いない。
「お二人とも寝室に下がられましたけど」
マリアンヌが言う。
「・・・」
ローズは、ぐったりと脱力感にあふれたまま、自分の部屋に戻った。