第5話
ローズが階下に降りていくと、公爵夫人が出迎えてくれた。
公爵は、ローズの知らない男性と話をしている。
「ダイアナ・ロザリン、紹介するわ。
こちらは、シャーンブルック侯爵です」
続いて、シャーンブルック侯爵にもローズを紹介する。
シャーンブルック侯爵は、黒髪の精悍な顔つきの男性。
背が高く、がっしりとした体格をしていた。
その服装は、あまり貴族的ではない。ローズは、その紺碧の瞳に吸い込まれそうな気分になる。
そんな気分を振り払って、丁寧にお辞儀をする。
シャーンブルック侯爵は、ローズを一瞥すると、公爵との会話に戻ってしまった。
自分が美人だと思ったことなんかないけど、ここまであからさまに興味を示されないと、腹が立つ。
そこにもう一人、同じ黒髪に紺碧の瞳を持つ青年が入ってきた。
シャーンブルック侯爵と同じ色の眼、髪をしているのにそのまとう雰囲気はまったく違う。
青年は、ローズににこやかに微笑みかけた。
公爵夫人が、すかさずローズに青年を紹介する。
シャーンブルック侯爵の弟であるというその青年は、エドモンド卿と言うらしい。
兄の侯爵とは、まったく違ったにこやかなエドモンド卿に、ローズは好感を持った。
それにしても、家族だけの食事だと聞いたのだけれど、シャーンブルック侯爵とエドモンド卿も、家族なのだろうか?
この屋敷に着いて以来、驚くことばかり。
今さらのように自分は、母親のことを何も知らなかったのだということを実感してしまう。
まだ母のもとを離れて1日もたたないのに、母に会いたくてたまらない。
食事をするためのテーブルまで、ローズはシャーンブルック侯爵にエスコートされる。
シャーンブルック侯爵の腕に触れた指先が熱くなる。
席につくと、公爵が口を開く。
「シャーンブルック侯爵と私の孫娘であるダイアナ・ロザリンとの婚約に乾杯!!」
ローズは目を見開く。
「そんなお話、聞いておりませんけど」
かすれた声で口を開く。
「もう決まったことだ」
公爵は有無を言わせぬ口調で答える。