第4話
公爵邸に戻ると、ローズは丹念にクリームとオイルで肌や髪の毛をマッサージされる。
マリアンヌは、張り切って腕を振るう。
「毎日、私がお手入れしましたら、デビューの日までに見違えるように美しくなられることは間違いございません!
今年のデビュッタントの中でナンバーワンにしてみせます!」
やたらと力の入ってるマリアンヌを見てると、逆らう勇気なんて微塵もわかない。
ローズは、マリアンヌの手に自分の体をまかせて目をつぶった。
疲れた体をマッサージするマリアンヌの手が気持ちいい。
そういえば、ローズが公爵邸に着いてから、まだ一日もたっていないのだ。
昨日の今頃は田舎の屋敷にいたというのが信じられない。
まるで違う世界に突然、飛び込んでしまった。
ローズは、ふわ〜っとあくびをする。
目を閉じると、まぶたが砂のように重くなってくる。
ローズは、いつのまにか眠ってしまっていた。
夢の中に、男が出てきた。
ローズの頬をそっとひとなでして去っていく。ローズは、ふっと目を覚ます。
窓の外からは、夕焼けが差し込んでいる。
むくっと起き上がって、きょろきょろとまわりを見回す。
いつもの自分の部屋と違う・・・
寝ぼけた頭で考える。
はっ。
そういえば、今日から公爵邸に滞在することになったのだった。
急に頭がはっきりする。
慌てて寝台から滑り降りる。
その時、コンコンとドアをノックする音がして、マリアンヌが入ってきた。
「お嬢様、お目覚めでしたか」
マリアンヌが、微笑む。
「そろそろ晩餐のためのお召しかえをして頂かないと」
そう言いながら、クローゼットから先ほど買ったばかりのドレスを出してくる。
「今日は、ご家族しかいらっしゃらないそうですので、簡単でよろしゅうございますね」
そう言いながら、ローズの髪をゆるく編みこんでリボンをつける。
「簡単・・・」
どう見ても簡単じゃないと思うのだけど。
「舞踏会などのための髪型は、この倍以上の時間がかかりますのよ?
今日は、簡単でございます」
そんなローズの心の声が聞こえたのか、マリアンヌが言う。
シンプルな淡いローズピンクのドレスはマリアンヌの体にぴったり。
同じ色の、髪につけたリボンもよく似合う。
ローズだって女の子だから、自分の容姿には自信はないけれど、可愛いドレスは大好きだ。
ちょっとウキウキした気持ちで、ローズは階下へと降りていった。