第31話
ローズが乱れた髪を整えるために控えの間に入ろうとした時。
聞いたことのある声がした。
「あんな小娘、気にすることありませんよ。
ニコラスは、ローズマリーと結婚するに決まってるわ。
そしたら、あなたが愛人として収まればいいのよ」
鼻をフンと鳴らしながら言うのは、レディ・マデラ。
「でも、ニコラスは、レディ・ダイアナ・ロザリンに夢中に見えますわ」
レディ・バーバラ?
「あれは、マンチェスターにおべっかを使ってるだけに決まってるじゃない。
誰があんな田舎の小娘、本気で相手にするのよ。
あんなの、かかしか棒っきれが突っ立ってるのと、おんなじじゃない」
レディ・マデラがせせら笑う。
「私はローズマリーがシャーンブルック侯爵夫人になって、私がお金に不自由しなければ、それでいいの。
ニコラスが小娘と結婚するなんて、あり得ないわ」
ふふん。
レディ・マデラは、自信たっぷり。
「小娘だって、自分を愛してもいない人と結婚したって、楽しくないんじゃないかしら?」
レディ・バーバラは、何も言わない。
ローズは、立ち聞きする気はなかった。
ただ、足がすくんでしまって、動けなかったのだ。
細く開いていた扉は、控えの間の中の声をすべて伝える。
聞けば聞くほど、せつない思いにかられたローズは、足音をたてないように離れて行く。
ローズは知らない。
レディ・マデラが、ローズが控えの間に入ってこようとしている瞬間に気づいていたことを。