第28話
大広間には、大勢の人たちがいる。
デビューしたばかりの少女から白髪の老婦人まで。
ローズはマンチェスター公爵夫人を探す。
マンチェスター公爵邸の大広間は、美しく飾りつけられ、人混みでごったがえしている。
ローズは、微笑みを絶やさず大広間を歩き始めた。
幾人かのひとに声をかけられる。
マンチェスター公爵夫人に連れて行かれたお茶会や夜会で会った人々である。
デビューしたての美しい令嬢もいて、ローズはうらやましくなる。
いいな。
自分に自信のもてないローズは、華やかな令嬢を見てうらやましくなる。
実は、その令嬢たちだってローズのことを内心、うらやましく思っていたりするのだが、ローズはそのことに気付かない。
自分をちやほやしてくれる男性もいるけれども、自分に魅力があるからだとは思えない。
マンチェスター公爵の孫娘だから。
クレアモント侯爵の娘だから。
だからみんな親切にしてくれるのだろう。
そんなことを思っていた。
その時、ニコラスが目に入った。
先ほどのレディ・バーバラとはまた違う魅力的な女性と一緒だ。
ふくよかな胸を露わにする寸前のようなドレスを着て、ニコラスに媚びを売っている。
ローズは、さっと視線をそらす。
ニコラスは、ああいう容姿の女性が好みなんだ。
自分とはかけ離れた女性像は衝撃だった。
自分の小ぶりな胸を見下ろす。
丁寧に服の下に隠れているそれは、レディ・バーバラやあの女性とは比べものにならない。
そう思うと、ローズは落胆を隠せない。
きっと、ニコラスも私がマンチェスター公爵の孫だから、結婚を申し込んだに違いないわ。
その考えは、ローズの心を蝕んでいく。
一度考えだすと、嫌な考えほど頭から離れないものだ。
そして、すべての物事を悪いほうへ、暗いほうへと染めていく。