第26話
モードという友達が出来て以来、ローズの社交生活は格段に楽しくなった。
夜会、演劇、演奏会、朗読会、お茶会。
相変わらず、特定の男性と仲良くすることはないが、モード以外にも友達が出来た。
レディ・マデラに連れられていたローズマリーは、レディ・マデラの連れ子らしいのだが、ほとんど顔を合わすことはなかった。
たまに会っても、おどおどと母親の影に隠れているだけ。
田舎の太陽の下、明るく育ったローズからすると、なんだかじめじめしている感じがしちゃうのだ。
もっとも、社交界にはもっとじめじめしている人たちもいる。
マンチェスター公爵夫人のいないところで、ローズやモードの悪口を言う人たちである。
田舎育ちのローズのことを、田舎臭いと馬鹿にする声は、ちらほらと耳に入っていた。
落ち込むローズをモードは
「みんな、あなたのことを妬んでるだけなのよ」
と、笑い飛ばす。
そう言われると、少しだけ勇気が沸いてきた。
憧れていた社交界だが、煌びやかな虚像の裏にドロドロしたものがうごめいていることに、ローズも次第に気がついてくる。
両親が、田舎で隠遁生活を送るのも最もなことなのかもしれない。
それでも、祖母や母の友人たちは優しくローズを受け入れてくれた。
そのため、陰口をたたく人たちはいても、ローズを仲間はずれにする人はいなかった。
ローズのことで陰口をたたくひとの筆頭といえばレディ・マデラだろう。
レディ・マデラは義理の息子であるニコラスが、自分を義母とも、シャーンブルック侯爵未亡人の称号も使わせず、わずかな手当てしかくれないことを恨んでいた。
そんなニコラスの親戚であるマンチェスター公爵一族も、もちろん憎らしい。
自分の娘であるローズマリーに、資産家の男性と結婚させたいとは思うものの、ローズマリーは引っ込み思案で、なかなか適した求婚者が現れない。
そのうえ、ローズやモードといったライバルたちがいたのでは、ローズマリーはかないっこない。
別に、レディ・マデラは娘に幸せになってもらいたいわけではない。
ただ、金のなる木の夫を捕まえる道具に過ぎない。
自分に見つけるのもいいが、再婚したら、あのしみったれたニコラスからの手当てが打ち切られてしまう。
レディ・マデラにとっては、頭の痛いところだった。
そんな事情は知らないローズは、社交シーズンを楽しんでいた。
マンチェスター公爵夫人は、孫娘の御披露目も兼ねた夜会を計画する。
それは、社交シーズンの中でも一大イベントとなるはずである。
その手伝いのため、最近のローズは今までにも増して大忙し。
いったん田舎に戻っていたアレックスとエミリーも、再びロンドンにやってくる。
侍女のマリアンヌは、ローズお嬢様を着飾らせるために、張り切っている。
マンチェスター公爵夫人は、招待状リストとにらめっこ。
誰を呼ぶかは重要だ。
社交界の多くの人を招待する舞踏会。
でも、誰でも招待するわけではない。
それに先立つ晩餐会。
これには選ばれた二十人ほどしか招待するつもりはない。
晩餐会のメニュー。
舞踏会で用意する軽食のメニュー。
考えなくてはならないことが山積み。
ローズは、マンチェスター公爵夫人を助けて、くるくる働きながらも、マンチェスター公爵邸での舞踏会が楽しみで仕方ない。