第25話
翌日、ローズは朝食に起き出す。
食卓では、すでにクレアモント侯爵夫妻、アレックスとエミリーが朝食を終えていた。
「昨日は、楽しんだ?」
朗らかなエミリーに昨夜の疲れは見えない。
「とっても!
でもオールマックスに来られている方たちの中で、お母さまが一番きれいだったわ!」
興奮醒めやらぬ口調のローズに、クレアモント侯爵夫妻は微笑む。
「レディ・クレアモントが一番なら、レディ・ダイアナ・ロザリンは二番目かな?
とにかく、二人とも美しくてビックリしたよ」
アレックスは、嬉しそうだ。
そこに、執事が来客を告げた。
「こんな朝早くから誰かしら?」
訝しがりながらも、ローズは客間に急ぐ。
そこには、レディ・モードが座っていた。
ローズは驚く。
レディ・モードは、昨夜とはうって変わったあっさりとしたモスリンのドレスを着ていた。
淡いグリーンのドレスは爽やかで、あまり胸元を強調しないものの、鎖骨に沿って綺麗にカッティングされている。
社交界の偏見を無くすには充分過ぎるほど清楚なドレス。
帽子もドレスに合わせて控えめな装飾が施されている。
「レディ・モード?」
思わず客間の入口で立ち止まる。
その声に顔を上げたモードは、ニッコリと微笑む。
「驚いた?」
「ええ、とっても」
手近の椅子に座りながらも、ローズはまじまじとモードを見つめてしまう。
「ジェイムズと、カントリーハウスにいる時はいつもこうなのよ。
いつも朝早く行動しちゃうから、社交界のみなさまは私のこの服装をご存知ないの」
ふふっとモードはいたずらっぽく笑う。
「でも、マンチェスター公爵夫人はご存知だったみたい」
不思議なもので、セクシーなドレスを着ていた時のモードがあんなにも妖艶に見えたのに、そこにはローズより少し年上の少女がいるだけ。
「夜会にいるのは、レディ・モードなんだけど、今はただのモードなの。
誰にも言わないでくれる?」
赤みがかった金褐色の髪がゆるゆると動く。
「もちろん。
でも、なぜ?」
素朴な疑問だ。
「私、好きな人がいるの。
その人に振り向いてもらいたくて」
そう言うモードの顔は、どこか憂いをおびる。
好きな人とは誰なのか、気にはなったけど聞ける雰囲気ではなかった。
その後は、当たり障りのない話をいっぱいする。
ローズよりも早くから社交界に出入りしているモードは、噂話にもくわしかった。
「レディ・マデラって、どんな方なの?」
モードの瞳が笑いを含む。
「蛇みたいに狡猾で孔雀みたいに飾り立てる人よ。
ローズマリーをシャーンブルック侯爵夫人にして、更なるお金を引き出したいらしいの。
なんでも、シャーンブルック侯爵家のアメジストを、自分がもらえなかったのを相当恨んでるらしいわ」
「シャーンブルック侯爵家のアメジスト?」
知らず知らず、ローズは左手を隠す。
シャーンブルック侯爵のアメジストって、もしかしたらこれかしら?