第23話
その時、頭に孔雀の羽根を飾った中年の婦人が、若い娘を伴って近づいてきた。
公爵夫人は、微かに顔をしかめる。
「ニコラス!!」
孔雀の羽根の婦人が、大袈裟にニコラスに抱きつく。
ニコラスは、すっと一歩後ろに下がった。
「まあ、冷たいじゃない?
ニコラス。
私の息子」
ふふっと笑うと、ニコラスの腕に自分の胸を押し付ける。
ローズは混乱してきた。
「レディ・マデラ・シャーンブルック。
私の父の未亡人だ」
ニコラスは、自分の腕からレディ・マデラを振り放す。
「まあ、冷たいこと。
お父さまがお墓の下で嘆いていらっしゃるに違いないわ」
よよよと傾ける頭と一緒に、孔雀の羽根が傾いてきて、今にも頭からずり落ちそう。
レディ・マデラに付いてきていた娘が、困ったように母親を見る。
小柄で、金髪に青い目の娘は、冴えないドレスに身を包んだ体を精一杯縮こまらせている。
胸まで押し付けたのにニコラスに冷たくあしらわれたレディ・マデラは、憤慨してその場を去ることに決めたようだ。
「ローズマリー!!!」
そう怒鳴るように呼ばれた娘が、レディ・マデラの後ろを追いかける。
「すみません。
大方、私に未亡人の生活手当てをあげてもらおうとしたのでしょう」
一呼吸おいて、ニコラスが謝る。
公爵夫人は、鷹揚に頷く。
「勝手に寄ってくるものは仕方ないでしょ。
でも、気をつけないと、ローズマリーとの間に、既成事実を作ってみようとするわね」
そう言う公爵夫人にニコラスは困ったように顔を歪めた。
「レディ・マデラの後ろにいた方は、どなた?」
ローズが聞く。
「ミス・ローズマリー・シン。
先代シン男爵の一人娘よ。
レディ・マデラの連れ子。
使える遺産はすべて、母親の浪費に使われたって、もっぱらの噂よ。
あの孔雀の羽根みたいにね」
モードが答える。
じゃあ、あの人がローズマリーなのか。
「既成事実って?」
無邪気にそう尋ねるローズに、モードは、ちょっと困った顔をする。
「その話は、今度、あなたと二人の時にしましょ。
マンチェスター公爵邸にお伺いしてもよろしいかしら?」
そう言われて、ローズは顔をほころばせる。
田舎の屋敷で、たくさんの人たちに囲まれて育ったローズにとって、ロンドンで初めて友達が出来たことが嬉しかった。