第19話
ジェイムズは妹のレディ・モード・キンバリーの付き添いで来たらしい。
「妹を放置しといていいのか?」
どこか憮然とした様子でニコラスが聞く。
「あっちで母親が見てるよ。
ここに来たことで、充分義務は果たした。
早々に栄誉ある撤退をするつもりでいたら、君が来たから」
ジェイムズはニヤニヤしながら言う。
「僕も紹介してよ。
君のローズに」
からかわれているのはわかっているのだが、君のローズと言われて嫌な気分はしない。
ローズは相変わらず、周りを男たちに取り囲まれている。
デビューしたばかりの令嬢に相応しく、白っぽいフワフワとしたドレスはローズのまわりにふわりと広がり、男たちがそれ以上近づくのを拒んでいるかのようである。
フワフワ広がるドレスには、あまりゴテゴテした装飾はみられない。
あまり露出していない胸元を、菫色のリボンが彩る。
しぶしぶジェイムズをローズのもとへと連れて行く。
白い手袋をしたままのローズの左手。
その手袋を、この男たちの目の前で剥がしてしまいたい衝動にかられる。
そこには、ニコラスが贈った指輪が光っているはずだ。
ついこないだも、どうやってもはずれないのと嘆いていたから。
でも、そんな無作法なことをするわけにもいかない。
ニコラスは、ぐっとこらえて礼儀正しくジェイムズを紹介する。
「レディ・ダイアナ・ロザリン・クレアモント、紹介します。
こちらはジェイムズ・キンバリー卿。
キンバリー伯爵の長男だ。
ジェイムズ・キンバリー卿、こちらはレディ・ダイアナ・ロザリン」
ぶすっとしたまま紹介するニコラスの顔を横目にジェイムズは、とっておきの笑顔をローズに向ける。
「ニコラスとは幼いころからの付き合いで、親友なんですよ」
その言葉に、ローズはほわっと緊張を緩めたようだ。
社交界の花と呼ばれる貴婦人たちほどの華やかさはないものの、ローズにはそれこそ菫の花のような清々しい可憐な美しさがある。
「こんなに美しい親戚を持ちながら、我々から隠していたとは、ニコラスには文句を言わなくてはいけませんね」
そう笑いながら言うジェイムズに、ローズは顔を赤らめながら首をふる。
「お上手ですこと」
軽くにらみつけるニコラスを無視して、ジェイムズは話を続ける。