第18話
ローズは、ニコラスに導かれてダンスフロアに出ていく。
ダンスは大好きだったローズだが、オールマックスで踊るとなると話が違う。
ニコラスの手を握りしめる手に思わず力がこもる。
そんなローズを、ニコラスは優しくリードする。
流れるような二人のダンスにまわりの人々が目を奪われる。
結婚市場ともいえるオールマックスにローズは鮮烈なデビューを果たした。
くるくるとまわりながら、ローズの頬は次第に紅潮してくる。
つながったニコラスの手から熱が伝わる。
その暖かさに緊張がほぐれてくる。
ダンスが終わると、ニコラスがローズを公爵夫人のもとに連れて行く。
緊張していたのだ。
そう自覚してしまうくらいに、体から力が抜けて行くのを感じる。。
公爵夫人は鷹揚に頷く。
それを見て、ローズは自分が失敗しなかったことを知った。
公爵夫人は数人の若者たちを紹介する。
ローズが踊っている間に公爵夫人の手によって厳選された彼らは、一様に上流階級。
爵位を持つもの、財産を持つもの、様々である。
公爵夫人が厳選しただけあって、孫娘のお相手としては申し分ない。
ニコラス以外から見れば。
ニコラスは笑顔の仮面の下で、歯噛みしたくなる思いをこらえていた。
自分がおばにからかわれていることは確かだ。
他の男をけしかけて、自分の反応を見ているといったところか。
特に害はなさそうだけど、おばの手のひらの上で転がされるのは面白くない。
第一、万が一ローズが他の男に目移りでもしたらどうするのだ。
婚約させて退路をたってからけしかけるなんて、たちが悪い。
ローズはキラキラ輝く瞳で男たちを見上げている。
ああいう顔をしたら男たちが夢中になってしまうじゃないか。
ニコラスの顔が次第に不機嫌になる。
ローズは、そんなニコラスの気持ちを逆なでするようににこやかに男たちに対応している。
ローズが相続人であるかどうかなどはさておき、公爵家の血筋、ミステリアスな侯爵一家の令嬢といったあたりに周囲が興味を持っているといったところか。
そんな冷めた視線を向けるニコラス。
その心の中にモヤモヤした感情が渦巻く。
そんな時、ふと集団の一人から声をかけられた。
「お前がそんな顔をするなんて、珍しいな。
まあ、こんなとこで会うこと自体珍しいか」
声の主は、親友のジェイムズ・キンバリー。
伯爵家の跡継ぎ息子である。
「お前こそ、オールマックスに来るなんて、とうとう値札を付けられたのか?」
ニコラスがニヤリと笑う。
「まさか」
ローズを見て険しかった表情が、親友の出現で一気に和らぐ。