第17話
ローズのオールマックスデビューの日。
マンチェスター公爵夫妻、クレアモント侯爵夫妻、クレアモント侯爵令嬢、シャーンブルック侯爵、エドモンド卿。
そうそうたる肩書きが告げられると、入り口付近にいた人たちが一斉に振り返った。
あたりは水をうったように静かになる。
マンチェスター公爵夫人は、そんな周囲の人たちを、面白そうに一瞥する。
必死であら探ししている輩もいるだろうけど、自慢の一族である。
娘は、あいも変わらず美しいし(きっと、私に似たのね)、婿はまあそこそこだけど整った顔立ちをしている。
そして今日の主役ダイアナ・ロザリン。
すらりとした華奢な体つきに本人は不満そうだが、ぽっちゃりなんていつでもなれる。
公爵夫人は、最近会ったばかりのこの孫を非常に気に入っていた。
娘夫婦には久しぶりの舞踏会を楽しんだほうがいいわと言って、付き添い役をかってでたものの実は自分が付き添い役をしたいだけだったりする。
だって、お気に入りの孫のデビューの付き添い役なんて、そうそう出来るものではない。
エミリーにはダイアナ・ロザリンの下にも娘たちがいるけれど、その子たちを気に入るとは限らないもの。
そんなことを考えながら、公爵夫人は蜜に群がるミツバチのようにローズに群がる青年たちに○×を付け始めた。
エミリーは早速、社交生活を再開したようで再会を喜ぶ友人たちに取り囲まれている。
その傍らには、夫がナイトのように立つ。
そんな夫に秋波を送るご婦人方も幾人かいる。
ことごとく無視されているが。
こんな面白いオールマックス、久々だ。
お気に入りの甥っ子ニコラスは、ミツバチたちに渋い顔。
追い払いたいが、そういうわけにもいかないらしい。
これを持ってきておいて、良かったわ。
そう思いながら、扇子を広げる。
面白すぎるからといって、マンチェスター公爵夫人が大口開けて笑うわけにはいかない。