第16話
ニコラスはクレアモント侯爵に会って、久々に緊張していた。
クレアモント侯爵には、様々な噂が流れているが、一部では放蕩を尽くしたあと改心し、大金を得たものとして知られていた。
そしてついには爵位も得た。
目の前のクレアモント侯爵は、温和な顔に時折鋭い眼差しがまじる。
自分ではすっかり大人になったつもりでいたが、こうしてクレアモント侯爵を目の前にすると自分はまだまだひよっ子な気がしてくる。
引退した放蕩者クレアモント侯爵。
流石の迫力である。
妻や娘のいるところで会ったときとは、明らかに雰囲気が違ってみえる。
こんな男には初恋のエミリーを盗られても仕方がない。
通りで老公爵が認めたわけだ。
「で、君は愛人とは別れたのかな?」
唐突にローズの父が口を開く。
なんでそんなこと知ってるんだ。
と、思うものの口には出せない。
「もちろんご令嬢との婚約のためには、あらゆることをしましたよ」
愛人とは金を使ってきれいさっぱりおさらばしたけど、そんなこと言うわけにはいかない。
クレアモント侯爵は、何も言わない。
ローズと結婚することで、ゆくゆくはマンチェスター公爵を僕が継ぐのは昔から決まっていたことだ。
正確には幼かったローズが僕を選んだ時から。
ローズがゆくゆくはマンチェスター公爵夫人になる。
マンチェスター公爵になりたいからだけではない。
初恋の人エミリーの娘だからというだけでもない。
小さなローズにプロポーズされた、あの時、僕は恋に落ちたのだ。
既に婚約はしているし、マンチェスター公爵の許可も得ている。
今さら、ローズの父親の許可なんてなくてもいいかもしれない。
それでも、ローズの愛する父親に認めてもらいたかったのだ。
ローズの父親は、口を歪めた。
「いたことは否定しないんだな。
まあ、いい。
あの子を不幸にするようなことがあったら、許さない。
泣かせるのも、もってのほか。
それだけだ」
ローズの父親は、そう言うと、さっと立ち上がる。
「クレアモント侯爵・・・」
「アレクサンダーだ。
ニコラス。」
ニコラスは、この男性に認められたことを知った。