第15話
クレアモント侯爵は、愛娘の姿に目を細めた。
今は田舎で隠遁生活を送っているものの若いころはそれなりにロンドンで遊んだものだ。
いや、むしろ遊び尽くしたからこその隠遁生活と言えなくもない。
放蕩の限りを尽くし、遊びにいささか飽きてきたころに、エミリーに出会った。
エミリーと出会って以来、急にすべての遊びが色あせて見えた。
極彩色に彩られているように見えていた数々のパーティーがつまらなくなった。
公爵令嬢と放蕩息子。
爵位を継ぐ予定もなかった。
急に自分に嫌気がさした。
それ以来、すっぱりと放蕩から足を洗った。
亡き祖母から受け継いだ遺産を運用し、資産を増やしはしたものの、公爵令嬢の結婚相手にはまだまだ役不足だった。
そんな自分に付いてきてくれた妻。
自分たちを信頼してくれた妻の両親。
クレアモント侯爵にとっては、感謝してもしきれない。
結婚以来今まで、ロンドンは避けてきた。
社交界にどんな噂が流れていても気にはしなかった。
けれども、愛娘のデビューにあたって、すべての憂いを取り除きたくなった。
娘の幸せのために。
自分たちがロンドンの社交界に顔を出すことで、つまらない噂はなくなるだろう。
まあ、そんなに長居する気はないが。
美しい妻は独り占めしていたいし、田舎に残してきた子供たちは可愛い。
クレアモント侯爵は、娘のオールマックスデビューの日を待ちわびていた。
さっさと田舎に帰りたくて。