第14話
そして、ローズの舞踏会デビューの日が迫ってきた。
マンチェスター公爵の孫娘にしてクレアモント侯爵令嬢であるレディ・ダイアナ・ロザリンに、オールマックスの招待状が送られないわけがない。
公爵夫人に紹介された名だたる貴族たちから、夜会やお茶会、演奏会への招待状が舞い込んでくる。
爵位をついだものの社交界に姿を現さないクレアモント侯爵。
公爵令嬢として社交界の花でありながら田舎で隠遁生活を送るクレアモント侯爵夫人。
変わり者と噂される二人の間に生まれた侯爵令嬢。
社交界の貴婦人たちの大好物である噂話には事欠かない。
クレアモント侯爵夫妻の友人たちは、噂話に乗ってくることもなければ夫妻の真実を語ることもない。
マンチェスター公爵夫妻にしても、娘夫婦の話は一切しない。
そのため、社交界のほとんどの人々は憶測や空想を膨らましていた。
中には、二人の間に生まれた侯爵令嬢があまりにも醜かったので、それを恥じたのだなどという腹立たしいものまであった。
まあ、結婚相手を探している令嬢の親にとっては、血統書付きの侯爵令嬢なんて、迷惑この上ない。
せめて顔や性格など、どこかに欠点があることを祈らずにはいられないのだろう。
ローズのオールマックスへのデビューが近づいたある日、クレアモント侯爵夫妻が公爵邸へとやって来た。
久しぶりに会う父にローズは心踊らせる。
ローズの父クレアモント侯爵は、おっとりとした学者肌。
田舎の屋敷には広い図書館があって、用事のない日には一日中籠もりっぱなしなこともあるほどだ。
たまに屋敷から旅行に出かけて何泊かしてくることもあるが、そんな時は大抵侯爵として領地の見回りに出かけていた。
クレアモント侯爵の最も広い領地に立つクレアモントハウスは、広大な邸宅で、そこには先々代侯爵夫人が一人で住んでいる。
本来なら、先々代侯爵夫人は領地内の寡婦用の屋敷に移らなくてはならないのだが、未だに居座っていた。
クレアモント侯爵のほうも、今の屋敷も気に入っているし、無理やり引っ越して年寄りを追い出すのも気が引けた。
だからといって、先々代侯爵夫人と現侯爵夫人の折り合いは決して良いとは言えず、いくら広い館とはいえ同居する気にもなれなかった。
しかし、そんな小さな屋敷で一家は楽しく暮らしていた。
クレアモント侯爵にとっても久しぶりの都会である。
自分たちの評判は特に気にしないが、デビューする娘のためには少しでも平穏なデビューをさせたかった。
そのために、重い腰をあげたのである。