第13話
公爵夫人の言っていた
「ローズのやらなければいけないこと」は、やはりお勉強だった。
上流階級の人たちの人間関係についての知識。
要注意人物。
ダンス。
レディとしての振る舞い方。
ありとあらゆることを、公爵夫人は伝授してくれる。
ダンスなどは大好きだったが、付け焼き刃のレディ教育は苦痛だった。
公爵夫人も、ローズを押さえつけてばかりいるわけではない。
外ではしっかりレディとして振る舞うという条件付きではあるが、屋敷の中にはローズの朗らかな笑い声が響いていた。
公爵夫人は美術館や公園でのピクニックなど、ローズが楽しめそうなところに連れ出してくれた。
なぜかシャーンブルック侯爵ニコラスも一緒に付いてくるのだけど。
母エミリーは、早々に田舎の屋敷へと引き上げて行った。
久しぶりの都会での生活はめんどくさいらしい。
確かに、ローズにとって初めてのロンドンは、美しくて色々と珍しいものに溢れているものの、なんとなく、田舎の澄んだ空気や土の匂いが恋しくなってくる。
でも、まだ舞踏会にも行っていないし、まだまだ社交シーズンは始まったばかり。
田舎の屋敷に帰れるのはだいぶ先になりそうだ。
完成したドレスの山が公爵邸に届くと、その煌びやかさにローズは言葉を失ってしまう。
デビュー仕立ての令嬢に相応しく、白っぽいドレスが多いが、そこらかしこに工夫がこらされ、のっぺりした印象を与えない。
公爵夫人の教育で、手足の動かし方を覚えたのか、だいぶ優雅な立ち居振る舞いが出来るようになってきた。
それでも、まだまだ自分に自信が持てず、なんとなくニコラスにつっけんどんな態度をとってしまう。
「私・・・どうしたいんだろう・・・」
部屋に一人きりになると思わずそんなことを呟いていた。