第11話
来客は、今ローズが一番会いたくない人。
ニコラスである。
通い慣れたふうに朝食の間に入って来て、さっとテーブルにつく。
「ニコラス、元気そうね」
エミリーは、にこやかに話しかける。
ローズは、どうしたらいいのか解らなくて、手に持っていたティーカップを持ち上げてみたり下ろしてみたり・・・
その指には、外れなくなってしまった指輪がはめられたまま。
ニコラスの目が指輪に吸い寄せられる。
「随分、早起きでいらっしゃるんですね」
何か話さなくては。
そう思って口を開いてみる。
「田舎の館では、いつもこんなものだよ。
あなたたちだって起きてるじゃないか」
そう笑みを含んで返される。
「そうだ、今日はローズを馬車で散歩に連れて行ってもいいか聞きに来たのですよ」
ようやく落ち着いて紅茶をすすっていたローズは思わずケホケホとむせてしまう。
「ニコラスったら相変わらず、行動が早いわねぇ」
エミリーはコロコロと鈴を転がすように笑う。
「デビュー前のこの子をいきなり公園に連れて行って、婚約者だと見せびらかして変な虫を追い払うつもりでしょう。
あなたにしたら珍しく余裕のないこと」
お母さまったら柔らかな口調で、なんだかとんでもないことを言っているような。
何を言ってるんだかと思いながらニコラスを見れば、それを否定することなく笑っている。
まさか図星だった・・・なんてことはないないない。
ローズは頭の中の考えを振り払うようにブンブンブンと頭を振る。
ニコラスは相変わらず涼しげな顔でエミリーと会話をはずませている。