第10話
ローズが身支度もそこそこに朝食の間に飛び込んで行くと、そこには母がいつもどおり座って優雅にお茶を飲んでいる。
「あら、早起きね。
まだ誰も起きてきてないわよ?」
その優雅な微笑みは、いつもと変わらず、ここが田舎の屋敷であるかと錯覚させる。
「私、お母さまにはキッチリと説明していただきたいことが山ほどございますのよ?」
ローズは母をにらむ。
エミリは、気にした様子もない。
ここでかっとなったら負けよ。
ローズは自分に言い聞かす。
結論を焦っても、母には勝てない。
エミリは案外策略家なのだ。
笑顔で人を丸め込むのは得意中の得意。
自分の父親を見ていれば、その手腕はよくわかる。
「お母さまが公爵令嬢だなんて聞いてないわ!」
そう、まずそこだ。
「言ってないもの〜」
おっとりと返される。
「なんで言ってくれないのよ!」
「聞かれなかったから?」
唇に指をあてて微笑む様子は、本気で愛らしい。
「お母さまが公爵令嬢ってことは、お父さまは・・・?」
「しがない伯爵家の三男だったんだけど、最近、親戚の方たちが亡くなったから、侯爵になっちゃったのよねぇ」
「なっちゃったって・・・」
ローズは目を白黒させる。
ってことは・・・私って、侯爵令嬢レディ・ダイアナ・ロザリン・・・なの?!
ローズは、あまりの展開の速さに付いていけない。
「私、いつのまに婚約したの?!」
「あら3歳の時、遊びに来たニコラスが帰ろうとしたら、あなたがしがみついて離れなかったのよ?
で、結婚する〜ってね。
ニコラスが快諾したから、ニコラスの両親と私とで婚約させといたの」
うふふと微笑む母とは対照的に、ローズは脱力感でいっぱい。
「ローズったら、一緒にいること=結婚だと思い込んでたのよね。
可愛かったわぁ〜」
エミリは本気で楽しそうだ。
ローズは頭を抱える。
婚約してたのも事実。
その上、自分からプロポーズしちゃってただなんて、乙女にあるまじき行為である。
不覚。
そう言うしかない。
その時、来客を告げるために執事がやってきた。