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幽体離脱!? いえ、異世界召還です!!  作者: 蒼信舎
第一章 幽体離脱と幽界
8/13

精心力の混合


――考察



 混合について。


 まずこれは、()()を混合するかと言う事だが、これは、精心力と()()の事だ。幽気についてはこの後説明するが、混合は、俺の精心力操作が中級になった事で、よりレベルの高い操作を身に付けるために重要な技術だと言う事だ。


 幽気は、現界が()()に覆われているように、幽界をくまなく覆っている()()だ。白い霧の様に見えるのがその幽気だが、その一粒一粒が淡く光を放っていて、明滅しながら幽界を漂っている。この幽気について理解する事が出来なければ、混合についても到底理解する事は叶わないとの事だ。




 俺が初めて不完全召還されて帰る時、幽界に放り出されて「真っ暗な空間」と感じた事は、今でもよく覚えている。

 明るい所から急に暗い所へ来た事による目の(くら)みもあるが、その時の幽界は、異世界召還術の行使の影響で、幽気が薄れ、いくつもの幽体が現界表面へ落下すると言う現象が起きていたのだ。

 その影響もあり俺には真っ暗に見え、ネムも「うまく飛べない」と評していた。



 エンムが言った言葉に、「混合を習得してワスティタスでも力を行使出来るようにせよ」とあった。これは、自身の精心力と空間に満ちている()()とを混合する事である。


 その要素とは、幽界なら幽気、霊界なら霊気。そして現界では大気、これは多種多様な要素があるが、地球の大気であれば、成分ごとに混合して効果を高めたりする事も可能との事だ。例えば、火属性を纏わせた精心力なら酸素と混合して燃焼を促したり、水属性なら窒素と混合して冷却効果を高めるなどだ。



 もちろん幽界では()()と混合する事になる。では、果たして幽気にはどのような力があるのか?


 それは、他の幽体たちを観察する事で理解出来る。


 ネムは、幽体が全身現れて銀ヒモが長くなるためには、「心の奥深く潜るか、超熟睡するか」と言っていた。

 超熟睡の時でも何かイメージする事が出来るのか? と言う疑問もあるにはあるが、幽界では心の奥底にある願望、または深層心理などがイメージとして表面化する、と考えればいいのだろう。


 幽界を漂う幽体は、銀ヒモが長くなったヤツ()()チョー自由に見える。他の現界に突進したり、森で迷子になったりと。

 そんな幽体はおそらく、現界で色々なしがらみや職場、人間関係などで自由を大幅に()()された日々を送っていたのだろう。

 自由に行動したい気持ちを、普段は奥底に閉じ込めてしまっているため、夢の中で心の深奥を覗いた時、その深層意識が幽体の無意識の行動として表面化しているのだ。


 話が少しズレた。


 幽気は、そんな幽体の無意識下での願望を具現化していると言える。その結果、ふよふよと浮かび、自由に動き回り、迷子になったりする。

 基本は精心力と同じだと言える。同系統の力ある()()と考えれば()に落ちる。

 と言う事は、精心力不足に陥った場合、幽界なら幽気を取り込む事で、精心力を回復出来る事にもなる。

 そして、心気弾や四属性操作、結界術や天翔術などのスキルも、空間に満ちている幽気を混合する事で、燃費の効率アップや単純に効果を高める事も可能だ。幽界は幽体にとって最適な場所と言えるのだ。

 



 では、ワスティタスには何が()()として存在しているのか。

 もちろん地球と同様に大気もあるので、大気の成分との混合も可能だ。

 しかし、地球に無くワスティタスにあるもの。それは魔法だ。ワスティタスの大気中には、()()と呼ばれる()()が大気の一成分として流れているのだ。


 魔法とは、魔力を用いて様々な法則に干渉し、効果を変化させたり、その法則の手順を魔力で代替し結果のみを再現したり、と言う事を可能とする術式である。

 これは、自身の魔力を使って術式を組み、加えて大気中の魔力も利用して事象を引き起こし、望む結果を得る、と言うものだ。


 ただし、魔法が存在する現界で生まれた種族ならば、生まれつき体内に魔力を持ち、それを利用する(すべ)も自然と理解出来るのだが、魔法が存在しない現界で生まれたならば、それは未知の領域であり、方法論が確立されていないのも道理だ。


 俺は、魔法の存在しない地球生まれである。そのため、魔法については本質的に理解することは叶わないだろう。


 しかし、俺は幽界で精心力を学び、それを扱う(すべ)を学び、その結果たるスキルも身に付けた。

 それを、今度は空間に漂う()()と混ぜる事で、幽界では言わずもがな、ワスティタスや他の現界に於いても、精心力と同様の方法で()()をも扱えるようになると言うわけだ。




 考察が長くなった。混合についてネムに講義されたのはこんなところか。




「キト、講義の次は実践よ」


 ネムは、まだ思考の渦に飲まれたままの暁斗に、実地訓練を始めようと促した。


「……お、おぅ。話だけ聞くと難しそうだけど。……やってみなきゃ分からないか」


 混合についての理屈は理解出来た(つもり)。だが、実際に自身の精心力と周囲の幽気を混ぜるとなると、どう始めればいいのか分からなかった。



「キト、心を鎮めて周囲の幽気を感じて」


――師匠は簡単におっしゃる。感じろ? うーむ。


 暁斗は目を閉じ、自らの幽体と周囲の空間に感覚を投じた。以前試した瞑想である。



 精心力が幽体の内側を流れている、のが分かる。そして幽体の表面は、自身の肉体のイメージで固定していて再現率も完璧だ。そして、その表面に接する力を感じてみようと、意識を表層に流してみた。


「キト、以前と逆のイメージです。精心力がダダ漏れだった頃、肉体のイメージを()()()事に集中しましたが、今度は感覚の()を周囲に伸ばすんです。漏らすのではなく、自らのイメージで伸ばしてください」


――手? 手を伸ばす……?


 暁斗はまるでハリネズミの様に、周囲に精心力の()を伸ばしてみた。



「おっ?」


 暁斗は伸ばした精心力の手に、何かが触れた気がした。これが幽気なのだろうか?



「キト、幽気の流れは感じましたか?」


 暁斗は目を瞑ったまま、ネムに答えた。

「多分これかな? 何だかサワサワしてる……」


 そうして精心力の手に触れている感触に意識を向けていると

「試しにそれを掴んでください」


 ネムがそれを掴む様に促した。


「むむっ、すり抜ける?」

「落ち着いてください。キトの手もそもそも実体じゃないんですから、すり抜けるってのは思い込んでるだけです」


――そうか、これは放出した精心力。()の固定観念に(こだわ)ってたらダメだ。


 暁斗は精心力の手の輪郭イメージを緩めた。すると精心力が周囲の幽気と混ざる感覚を憶えた。


「それです! 巻き込んで玉にして!」


 ネムの声が響いた。暁斗は咄嗟にかき混ぜるイメージをしながら精心力の玉を作った。


「でっけーな……」

「良く出来ました。それが混合です」


 目の前に出来た精心力の玉は、暁斗が思っていたよりも大きな玉だった。元々そんなに多くの精心力は込めていなかったが、それでも暁斗の予想の十倍程度の大きさだった。



「混合が出来れば、自分の精心力の節約にもなりますからね。これでキトも遠距離の天翔術を使っても平気ですね」


「何回も使えないけどな。まぁ、今までよりは格段に効率いいか」



「それじゃあ、しばらくはまた地道に訓練ですね。訓練場使っていいですから、混合と他のスキルも一緒に訓練してください」

「うぇ、また訓練詰めかぁ」


 暁斗はまた地道な反復練習が始まる事に、顔を歪めた。


 しかし、この混合の訓練は、それまでのただの反復練習ではなく、身に付けたスキルを用いる事で、更に効率や効果を高められるとあり、暁斗の訓練に向けるやる気も高かった。


 例えば、心気弾では大きさのみならず、貫通力を高めたり着弾時の破壊力を高めたり、はたまた周囲の幽気の作用で軌道を変えたりと、今まで以上に思いを迅速に反映させる事が出来た。


 四属性操作なら、自身の精心力は最初の核を創るためだけに使い、周囲の幽気を媒体として作用を起こす事も可能だ。心気弾を飛ばして滞空させ、それを中心に一定範囲を凍らせたり、燃やしたりも出来るのだ。


 結界術は、一度展開した後は周囲の幽気を自動で補給し、ほぼ半永久的に発動させる事が出来る。


 天翔術に至っては、周囲の幽気を把握した事で、それまで感じていた空力の様な抵抗力や音を消したり、自身のイメージ投影を幽気で別の場所に作りながら移動する、フェイントが出来たりもする。多分、分身も出来るだろう。ロマンだ。



 どれも自身の精心力は最小限で済み、核となる精心力の玉さえ作っておけばその後の精心力は幽気を流用出来るのだ。



「ヤバい、こりゃ便利だし応用が幅広いわ」


 暁斗は訓練しながらも感嘆の声を上げた。混合を覚える事でここまで劇的な変化があるとは思っていなかったのだ。



「キト、これで現界へ召還されても大丈夫ですね」


 ネムもどこか安堵しているようだ。



「ああ、何も出来なくて犬死にだけは避けられそうだ。でもさ、一つ気になるんだけど、ワ…… ワスティタスだっけ? そこに行ったら地球の肉体ってどうなるんだ?」


 そう、今の暁斗は眠っていて夢の中だった。異世界に行くのはいいが、幽体で行く訳ではない。今までも現界へ入るとそこからは肉体になっていた。足だけ地球上から消えてたいたのも記憶に新しい。


「それは、もちろん肉体もワスティタスに行きます。ひと幽体にひと肉体です」



「だよなぁ。そうするとさ、俺がワスティタスに行ってる間って行方不明になるって事か?」



 今の暁斗は幽界にいるため、体感で何日過ごしても起きれば次の日の朝だ。今のところ一日の睡眠時間でおよそ三ヶ月程度の幽界時間になっているようだ。ただそれも目安に過ぎず、実際、幽界での体感時間は当てにならない。


 しかし、現界へ入るとなると話は違う。

 ワスティタスの時間の流れはどうなっているのか分からない。もし、地球と同じ時間の進み方だとしても、一晩で帰ることは出来ないだろう。暁斗は地球を長期間離れなければいけない事を、少なからず心配していたのだ。



「それなら心配しないでください。幽界を経由すれば誤差は修正出来ますよ」


「は!? 誤差? なんだそりゃ?」


 暁斗は声を裏返しながら、ネムに聞き返した。


「誤差は誤差ですよ。そもそも、()()()と言うのは現界()()に存在しているんですよ? 最初にここは時間は殆ど関係無いって言ったじゃないですか! 忘れたんですか?」

 

――むむ…… 確かにそんな事を言ってたような…… 十万年位生きてるとかなんとか……



「キト、幽界は現界の(ことわり)から外れた世界ですよ? 時間の流れと言うのは、その現界の創造主が(もう)けた設定のひとつに過ぎません」



――設定!? しかも創造主って、神様だってのか?


 暁斗は久しぶりに混乱していた。幽界に来て、今ではだいぶその非常識ぶりにも慣れていたのだが、神とか設定とかの登場は再び暁斗に混乱をもたらした。


「えーと、ネム……さまも神様なのか?」

「ほぇ?」


 今度はネムが呆けた。

 二人揃って向かい合ったまま、しばし固まっていた。


 その沈黙を破ったのは、ネムだった。


「キト、あのですね、私はただの管理人の一人です。神界(しんかい)には行った事も無いし、神界の関係者とも会った事はありませんよ」


――神……界……?



 どれだけの時が流れただろう。いや、幽界なので時間の概念は当てはまらないが、暁斗の思考回路はパンクしていた。


――現界、幽界、霊界、そして神界? これは夢だ、きっとそうだ! ……いや、夢だ。夢の中なのは間違いない…… そうだ、おとぎ話だ。おとぎ話の中に取り込まれたんだ……



「キト? 大丈夫ですか? ……一回起きますか?」


 ネムが心配そうに暁斗を覗き込みながら、ピコピコハンマーを取り出し、混乱著しい暁斗に向かって振り下ろした。



ピコンッ!



  ◇



 暁斗はベッドに目を開けて横になっていた。


 時間はまだ、午前二時。丑三つ時だ。こんな時間に強制送還しなくても…… などと考えながら、暁斗は先程までいた夢の中でのネムの話をグルグル考えていた。


「マジか。 ……神様ねぇ……」


 普通ならにわかには信じがたい事だ。しかし、幽界や霊界の存在、そして数々の現界。今さら神界が加わったとしても、暁斗にとっては世界の認識が一つ増えるだけだ。ファンタジーさが一段階上がっただけの事である。



「そうだよな、もうこんな事も出来るんだし……」


 暁斗はそう言って、手のひらの上に光る玉を浮かべた。精心力の玉である。そして、しばらくふよふよ浮かせ、ボッと火を灯し、それを次の瞬間氷結させた。



「ハハハ、超能力者デビュー出来るじゃん」

 暁斗はポンポン精心力の玉を出しながら、ケラケラ笑った。



「そうだ! せっかく混合を学んだんだから、空中散歩でもすっか? 真夜中だし」


 暁斗は突如思い立ち、地球上で空を飛んでみようと考えた。真夜中なら日中ほど人目も気にしなくて良いだろう。



 早速、暁斗は着替えてベランダに出て、ひとつ深呼吸をした。


――イメージを固めないとな。細胞と精心力、周囲の空気と精心力を混合、体の周囲に結界を発動し、結界内を常時適温に、大気組成を固定して酸素を常時補給。ひとまず五百メートル上空に転移して、その後は天翔術で歩く。飛び立つ所を見られるのは後々面倒だからな……


 暁斗は念には念を入れて一つ一つイメージをしていった。目撃されるのも落ちるのも寒いのも勘弁だ。快適な空中散歩がしたい。しばるくすると、暁斗の肉体をうっすらと精心力の光が包み込んだ。


 暁斗は空を見上げ、おおよその転移先に目星をつけ、そこへ精心力を飛ばした。

 しばらくの間集中し、飛ばした精心力へ自身の精心力を流し込んだ。



「よし、行っけー!!」


パシュッ!


 ベランダの暁斗が消え、上空に現れた。



「おおぅ……。こりゃスゲーな……」


 暁斗は眼下を見下ろし、思わず息をのんだ。それは、今まで見た事の無い程の夜景が広がっていたからだ。

 真夜中であるにも関わらず、現代の日本はやはり明るい。街灯や工場の灯り、車も走っているし、まさしく眠らない街だ。


「もう少し上昇するか。下から望遠鏡とか、無いとは思うけど念のため…… な」


 暁斗はそう呟いて、更にそこから高度を上げていった。思い切って行ける所まで行こうと、つい八千メートル以上まで上昇してしまった。


「空気がだいぶ薄くなってきたな。空気を混ぜた結界の維持に大量の精心力が流れるわ。一万メートル位が限界かな」


 高度一万メートルと言えば、ジャンボ機が飛んでいる高度だ。いわゆる宇宙に出るにはまだ三百九十キロもあるが、さすがに肉体を維持するための空気が少ないと、精心力を多大に消費してしまうため、これ以上は今の暁斗には無理だった。

 あるいは、高層の大気成分や、宇宙空間にある成分などを知識として蓄え、それを活用するイメージが出来れば、宇宙に行く事も可能となるだろうが、今はまだその考えには至れなかった。


 暁斗は、それ以上上昇する事なく、高度一万メートルからの自由落下を楽しんでいた。結界術のお陰で苦しくないし、風圧で顔が歪む事もないので、時折天翔術で急停止したり走ったりもしてみた。


 まるで童心に返ったように、心ゆくまで楽しんだ。



「空中散歩も堪能したし、そろそろ戻って寝るかな」


 すでに、神様云々や異世界ワスティタスの件は、そんなもんだ、と受入れていた暁斗だった。空の散歩で色々吹っ切れたのだ。一時間程度だが、心に渦巻くモヤモヤも発散する事が出来たようだ。



 自由落下で家路につく暁斗。眼下にはビルや建物、灯りが大きくなって来た。一度停止してベランダに転移し、纏っていた結界を解除した瞬間、突然暁斗の体を包んでいた精心力の光が明滅し始めた。



――あれっ? 精心力無くなった訳じゃないよな?


 暁斗の精心力はまだ充分だった。混合を覚えて効率が良くなったはずなので、精心力の枯渇にはまだ程遠かった。



 すると、頭の先から黄金の光が降りかかり、上半身をすっかり包み込み、暁斗がその異変に体を震わせた時




 ……暁斗は次第に、頭から消えていくのだった。






【ステータス】

名前  キト

真名  真坂暁斗(まなさかあきと) ―非表示―

現界  地球

自我  外

状態  契約

肩書  涅夢(ネム)眷属(けんぞく)

属性  空気を読み過ぎるツッコミ

スキル 精心力操作(中級) 心気弾(中級) 四属性操作(初級) 結界術(初級) 天翔術(中級) 精心力混合(初級)






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