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戦後処理 後日談

「そんで、姉御は王命すら跳ね退けたと……肝が据わっているというかなんというか……」


「あんな蛇の巣窟みたいなのと事あるごとに関わらなきゃいけないって考えただけで胃がキリキリするからね……この街にきてだいぶ鍛えられた胃だけど、それでも限度はあるよ……」


「しっかし、もったいねえなぁ」


「もったいなくないでしょ」


「ちげえよ。姉御がこの街に駐在するならいつでも会いに行けたし、おやっさんとの間を応援することも容易かっただろうしなぁって」


「あぁ……ウルフ君まだ勘違いしてたの? 」


「勘違いじゃねえよ。おやっさんはあんたに本気で気を許してるぜ」


「へぇ……それが本当にせよ嘘にせよ安易に口外しない方がいいよ。訓練、特に厳しいの受ける事になるから」


 その言葉にウルフ君が何を思い出したのか、ぶるりと身震いをしていた。

 タカヒサさん、よっぽどひどい訓練だったんですね……。


「で、結局いつ旅に出るんだ? 」


「まだ未定。とりあえず買い込んだ食料とか武器とか、そういうのの処理が終わってからかな」


 食料は日持ちする物を中心にしているから捕虜になった皆さんの分として領主様に売りつけた。

 これでそっち方面は黒字。

 続けて捕虜の一部をイオリさんにプレゼントして情報を引き出してもらった。

 それを領主様や陛下に売りつけて濡れ手で粟。

 最後に魔剣とか魔装の回収をウルフ君主体で進めてカリンさんに返却、その上で洒落にならないと判断したものはエスカルゴン様が食べて力の回復に回してもらった。

 今はまた売れそうなエンチャント装備を大量に用意してもらっているところ。

 処理待ちの大半はこれ。


「そっかぁ……姉御ともお別れか。寂しくなるな」


「冒険者と行商人の出会いなんてこんなもんだよ。偶然すれ違って、そのうちお別れするってね」


「ドライだなぁ」


「じゃなけりゃとっくにどっかの街で専任商人として腰を落ち着けてるよ」


「そりゃそうだ」


「この先も私はどこかでウルフ君みたいな冒険者たち、領主様達みたいな貴族の面々、タカヒサさんのような裏組織、ヨートフさんみたいな聖職者、イオリさんみたいな娼婦、そういった人たちとずっと商売を続ける事になるんだよ。それこそ死ぬまでね」


「なるほどなぁ、俺が死ぬまで冒険者でいるって覚悟と同じってことか」


「そういう事、それを邪魔する相手がいたらウルフ君はどうする? 」


「ぶっ飛ばす」


「大正解! そのくらいの覚悟無しに続けられることじゃないって話だよ。これは生き様の話だからね」


「生きざま、ねぇ……姉御の話は難しいんだかわかりやすいんだか……」


「わかりやすく、それでいて一部は難解に。それが商談の基本なのだよ」


 難しい説明をしすぎると相手は興味を失うけど、簡単に説明しすぎても買いたたかれる世界だからこそ私はこうして迂遠な言い回しを覚えたわけよ。

 詩集とか読んで勉強するの、結構大変だったなぁ……。


「あ、でも王様の後ろ盾だけは得られることになったよ。ほら」


 胸元には銀色のタグ。

 ウルフ君たちが着けているのとは違い冒険者の証明書ではなく、国王陛下公認の行商人であるという内容が書かれている。

 これさえあればある程度身の安全は保障されるからね。

 冒険者の護衛を雇いやすくなるし、盗賊に出くわしても多少話が通じる相手ならこれを理由に逃げられる可能性だってあるから。

 代わりに他国には行きにくいけどね……。

 ちゃっかり首輪つけられたから、あの国王陛下もなかなかの狸だわ……。


「ほほう、じゃあさ姉御。俺の部下を連れまわしてみる気は無いか? 」


「ウルフ君の部下って……前に話していた孤児の集まりの? 」


「そうそう、俺を集団で囲んでぼっこぼこにした奴ら。あいつらをもう一度集めてやり返してもう一回俺の部下にしたんだよ」


「へぇ……大丈夫なの? 」


「生きのいい奴らだが悪い奴はいない。それは俺が保証するよ」


「そっか、じゃあ今後の護衛に使わせてもらうよ」


「おう、あとで声かけとくからな」


 そう言って立ち去って行ったウルフ君。

 手にしていたジョッキの中身はすっかり温くなってしまったが、それを飲み干す。

 エールの果物のような香りが鼻を抜けて、甘みが舌に残った。

 少しだけ、街の、酒場の喧騒が遠くに行ってしまったような気がした……。

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