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開戦

 武器と食料の買いだめを勧められる。

 それはすなわち戦争を意味する。

 しかしこの街にとどまることを勧められたとなれば話は別。

 紛争の方が近いかな。

 大方先日ギルドに来ていたなんちゃらという公爵家が魔王と内通しているこの街を救い出すとかそんな名目で軍隊を派兵させるんだろうなぁというのは想像に難くない。


 つまり、お金儲けの時間だこらぁ!


「というわけでウルフ君、知り合いの冒険者を片っ端からこの街に呼んで。内紛でお金儲けできるよと言えば二つ返事で食いつくから」


「うっす」


 はい、戦力一つ確保。

 この傭兵たちは一時的に私が雇っていることにして領主に貸し出すという名目でお金稼ぎだ。


「ヨートフさん。公爵家をぶちのめした後に新月派の事広めたら一大派閥として扱われるようになりますよ」


「あまり興味の沸かない話ですねぇ」


「一大派閥になれば今後刺客の数が減るでしょうね。その上新月派を認知しなければいけない総本山は上から下への大騒ぎで意趣返しになります」


「興味がわいてきました。各地の新月派を集めますね」


 はい戦力追加。

 これで総本山から私が狙われる確率減る!

 命は大事に!


「カリンさん、作ってみたいけど使う機会が無いってエンチャント試してみませんか? アイテムはこちらで負担しますから、代わりに作った装備は実験後改良したものを格安で鈴ってください」


「おや、気前がいいですね。喜んで」


 はい武器確保。

 これで雇う傭兵たちの死傷率が減る上に後日その武器を使った人たち相手に改良品を売りつける事もできる。


「イオリさん。これから男の人沢山捕まえる事になりますけどつまみ食いいかがです? 」


「あらぁ、いいのぉ? 」


「十人くらいなら食い殺してもいいですよ。それ以上は死なない程度で」


「楽しみだわぁ」


 はい拷問官確保。

 これで公爵家の情報は筒抜け同然。

 しいて言うなら、カリンさんの武器相手に生き残れるかどうかだけど。


「エスカルゴン様、しばらくすると新鮮なお肉食べられますけどそれで回復できますか? 」


「新鮮であるか、どれほどのものだ」


「ざっくり、死んだばかりの人間、あるいは踊り食いで1000くらいです」


「多少の足しにはなるだろうな。魔剣などがあればなお良い」


「その辺はお任せしますが、魔剣はほどほどでお願いします」


「心得た」


 戦力追加入ります。

 まぁこれで勝ち戦は見えた。

 あとは……。


「というわけで、リーエルさん。私の口座からちょくちょくお金引き落としますんでよろしくお願いします。それとギルド通しての依頼で周辺の街から集められるだけの食糧と武器と防具、それとアクセサリーの部類を」


「はぁ、内紛ですか……面倒ですね」


「内紛の一端を担った責任がありますよ」


「それを言われるとこちらも弱いですね。わかりました、ギルドとして承認しましょう」


 商人ギルドが証人として承認する……なんちゃって。


「今くだらないこと考えましたね」


「キノセイデス」


 危ない危ない……。

 これで準備は万端。

 いつでも来いよ返り討ちだ。


 と意気込んだのはひと月前の事。

 半年と言っていたタカヒサさんだけど、思ったよりも早かったなぁ。


「では領主様。私は自分の雇っている冒険者をお貸しするのであとはお好きに。ただし死傷者への見舞金はそちらが負担で、冒険者派兵の経費、並びに貸し出している私への支払いも滞りないようにお願いします」


「うむ……」


 苦い顔の領主様。

 そりゃまぁね、ここまでおぜん立てされたら裏を疑うでしょ。

 魔王エスカルゴン様連れてきたの私だし。

 でも本当に裏は無いのよ裏は。

 馬鹿な貴族が馬鹿な真似をしただけだから。


「それから食糧ですが、向こう三年は街の住民総出で籠城できるだけは集めてありますので」


「あぁ……」


「武器も今回参戦してくれるこちらの陣営全員にいきわたるくらいはありますからいつでもどうぞ」


「……はぁ」


 ため息すら隠さなくなってしまった。

 準備が良すぎたかなぁ。


「再度聞くが……これは本当に偶然のなりゆきなのだろうか」


「再度答えますが、本当に偶然ですね。なんちゃらという貴族がエスカルゴン様とカリンさんとウルフ君を欲しがって、手荒く追い返されたから力ずくでと打って出た結果です」


「……公爵家かぁ、面倒だなぁ」


「心中お察しします。あ、これご注文の使い捨てエンチャントの矢です」


 使い捨てエンチャントとは一回こっきり、効力を発動したら最後二度と使い物にならないような物を指す。

 基本的に炎の魔法がエンチャントされた矢で、刺さると周囲一帯を巻き込んで大爆発する。

 それが100本1セットで3000ゴールドなり。

 カリンさんが試したかったエンチャントの一つでもある。

 弓の腕に自信がなく、さらにある程度の距離を飛ばさなければ使用者も危険という武器なので作ろうとは思っても試す機会が無かったと語る。


 実際に作ってもらったはいいけど、こんなもん魔王討伐か邪神討伐でしか使わないだろうなという結論がでた。

 だって高価なのに使い捨てだし、威力だけは馬鹿みたいに高いから。


「もうどうにでもなってくれ……」


「じゃ、私外の様子見てきますね」


 泣き出しそうな領主様はさておき、気になるのは外の様子。


「ウルフ君、どう」


「おう姉御、見ての通りカタツムリの兄さんにビビってあそこから動かねえんだ」


 手渡された双眼鏡をのぞき込むと公爵家が派兵したのはおよそ5000人前後。

 あそこから何人生きて帰れるのかなぁ……。

 戦争は儲かるけどリスクが大きいから困るんだよな……。

 今回は勝ち戦だけどさ。


「っと、ウルフ君。どうやら覚悟を決めたみたいだよ」


「ほう……あぁ本当だ、偉そうなおっさんが前に出てきたな」


 双眼鏡ものぞき込まずに数百メートル先での出来事をしゃべるウルフ君。

 この街ってさ、人外魔境だよね本当に。


「公爵家当主セルゲイ・フォン・ルーズベルト卿の使い! アルベルト・フィーネがここに通達する! 魔王エスカルゴンに組し邪悪な地をイーリス様の加護を得て浄化に参った! 大人しくその首を差し出せば楽に殺してやるだけの慈悲はある! 」


 あぁ、開戦通告ですらない。

 死刑宣告だ。

 これはもう、終わりだね。


 あ の 人 た ち が。


「ひゃっはー! 新鮮な首だー! 」

「殺せ! 」

「イオリ様に捧げる分を残せ! 」

「魔剣はエスカルゴン様に献上だおらぁ! 」

「新月派の力をお見せする時ここに来たれり……」

「公爵がなんぼのもんじゃい! 」

「リーエルさんの微笑みに比べたら豚公爵なんざゴミどうぜんよ! 」

「おやっさんに俺らの忠義をお見せするときだ野郎ども! 」


 はいこの通り。

 いつの間にか最前線に飛び出していったウルフ君含めてやばいのがちらほら。

 魔王信仰者まででてきたのかぁ……。

 何でもありだなこの街。


 そんなこんなで開戦したけれど、5分後。


「た、助けてくれぇ! 」

「俺の足がぁ! 」

「だれか俺の腕をつなげてくれぇ! 」

「矢が爆発するぞぉ! 」

「奴ら魔剣で武装してやがる! おのれ魔王め! 」


 はい、僅か五分、されど五分。

 力量差を思い知らせるには十分な時間でしたとさ。

 ついでに戦場はのどかな平原だったんだけど、みんなドッカンドッカン魔剣振り回しているせいで地面がむき出しになってるし、あちこちクレーターができてる。

 カリンさんの手柄がエスカルゴン様に取られているけどそれはまぁ……どうでもいいか。


「おーう姉御、これあと一時間も持たないんじゃねえかな」


「あ、お帰りウルフ君。もういいの? 」


「歯ごたえがねえ。せっかくの武器もあんな奴らに使うのがもったいないんでいつもの使ってたんだが……それでも瞬殺でなぁ」


 だろうね。

 金階級の冒険者ってそれだけで軍隊に匹敵する戦力だし。

 この街には金階級はウルフ君だけだけど、魔剣で全員が金階級以上にパワーアップしてるからそりゃもう虐殺だよね。

 たかが5000人程度じゃ。

 領主様、胃が痛そうだったなぁ……この街に来たばかりの自分を見ているようで懐かしさすら覚えるよ。

 あとでよく効く胃薬持って行ってあげよう……。

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