可哀そうな魔王 後日談
魔王様に乗って街へ行くというのは、まぁ予見していたけど大問題だった。
住民はパニックになったり、冒険者が総出で立ち塞がったり、集まった人たちは揃って死を覚悟していたりしたくらいには。
そりゃそうだ、私だって死ぬかと思ったから。
しいて言うなら死ぬかと思ったという場数が違うくらいか。
「つまり……魔王エスカルゴン様は無害と……? 」
「無害ですよ、ちょっと情報集めの為に私と行動を共にしているだけです」
「はぁ……であるならば、貴方は魔王様の契約者様という事で? 」
「当たらずとも遠からずですね。魔法とかで契約していないので、商人としては口約束扱いです。破るつもりはありませんけど」
「そう……ですか……。あの、本当に安全なんですよね」
「まぁ気になりますよね。おーいエスカルゴン様―」
「なんだエルマよ」
「この人たちが不安がってるから少しお話してあげて。私その間お買い物行ってくるから。ウルフ君は荷物持ちね」
「あいわかった」
「うぃーっす」
目の前で話していた、町長かな。
若干年季の入ったおじさんは口をパクパクと動かしているけど言葉が出てこないらしい。
わかる、わかるよ。
異常事態に遭遇すると人は言葉が出てこないんだ。
私もそうだった。
もう慣れた。
「姉御、買い物つってもどこも店じまいみたいだぞ」
「あぁ……そっか、エスカルゴン様襲来でみんな逃げ出そうとしてたんだっけ……まいったなぁ」
「こりゃあれじゃねえのか? 」
「あれかね」
顔を突き合わせてにやりと笑みを作る。
街が元の状態、つまり外にいるエスカルゴン様に慣れるまで数日間ここに滞在するという選択肢。
エスカルゴン様の殻の上ってバランスとりにくくて寝るどころじゃなかったから……。
久しぶりにベッドで寝られる!
それとエスカルゴン様の粘液を落としたい!
ぬめぬめする!
そうと決まれば少し高い宿探しだ!