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*うねる正体

 男の声に振り向くと、そこには褐色の肌の人物が拳銃を手にして立っていた。

「あ、ありがとう」

 こんな状況でなければ男の姿は通報ものだが、今は心強い味方に見える。

「えと」

「アア。ワタシ、モリスとイイマス」

 怪訝な表情を浮かべている蔵人に笑みを見せ、握手を求めてきた。かなりガタイがよく、肩までのドレッドヘアがイカしている。

「俺は蔵人くろど義彦よしひこ

「俺、一口いもあらいおさむ

「ヨロシク」

「よろしく」

「よろしく」

 ゾンビが彷徨うろついている中での挨拶はいささがシュールだ。モリスは片言の日本語から解るように、日本にずっと住んでいるという訳ではなさそうである。

「ワタシ、米軍基地ニイマシタ」

「え。基地ってこっから遠いよな」

「今日ハ非番デシタ」

「へえ」

 俺は説明を聞きながらモリスの手を見つめる。非番の人間が、なんだって拳銃を持っているのか。

「ソンナコトヨリ」

 察してか話題を変えやがった。よくよく見るとこいつ、背中に背負ってるのはショットガンじゃねえのか。

 ゾンビ映画らしくなってきたっちゃあ、なってきた。

 しかしだ、違和感ありすぎだろ。ここは日本だ。アメリカじゃない。いや、アメリカでも州によっちゃおかしくなるかもしれない。

「なんでそんなもん持ってるんだ?」

 ばか一口がしれっと尋ねやがった。

「コレ、改造ネ。サバイバルゲームで使オウト思ッテ、トランクに入レテタネ」

「そうなんだ」

 お前よくそれで納得したな。

 頭撃ち抜くくらいの改造をゲームに使う奴はいないだろ。そもそも改造かどうかも疑わしい。俺は本物だと確信している。

 しかし──助かったから今は不問とする。

「いま世界がどうなっているのか知らない?」

「オウ、ソレハワタシも知リタイネ」

「モリス。あんた」

「ナンダイ?」

 俺は疑問に感じていることを率直に訊いてみた。

「本当はなまってないんじゃないのか」

「どうして解った」

「それよりなんでなまらせた」

「大体の日本人はなまってることを期待するから」

 結婚式の外国人神父じゃねえんだからやめろ。

「まあ、期待してなかったかと問われると期待してたかもしれないけど。なまらなくていいよ」

「了解」

「それで、これってどうなってんの?」

「オレも解らないんだ」

 基地に連絡しても誰も出ないらしい。少なくとも、この地域だけで起こった状況じゃないってことなのだろうか。

「何か情報はない?」

 それにモリスは肩をすくめる。同じ場所にいたなら、そりゃあ新しい情報を持ってる訳はないか。

「ただ、さっきショットガンで頭を吹き飛ばしたときに、ある程度の情報を得られた」

 軍人らしい物言いだ。頭を吹き飛ばし云々は差し置いて、何か情報があるなら有り難い。

「どんな情報?」

「本来、脳があるはずの所に変な虫がいた」

「は?」

 俺と一口いもあらいは同時に変な声を出した。

「でかいのが一匹と小さいのが二匹」

「それって……」

「これは寄生虫の仕業だと?」

「確信はない。一人しか吹っ飛ばしてないからな」

 たまたま吹っ飛ばした一人の頭に、たまたま虫がいたとは考えにくい。

「じゃあゾンビの頭には、みんな虫がいるってことか?」

「そう考える方が妥当だろうな」

 俺の言葉にモリスは無言で頷いた。

「どんな感じの虫?」

 俺もそれは気になっていた。

「節が幾つもあって、芋虫みたいにぶよぶよしていた」

 聞くだけでも気持ちが悪い。

「色は乳白色。頭部は青くてかなり太い」

 大きいやつはオレの手のひらくらいの長さまで伸びるっぽいとモリスは得意げに説明した。

 前の方に小さな足が三対さんついついていて、つまりは六本。しばらくは動いていたがすぐに死んだそうだ。

「死んだ?」

 一口は眉を寄せる。

「虫自体が損傷してとかじゃなく?」

 さらに問いかける。

「虫は綺麗だったよ。尻のあたりが人間の神経とつながっていたかもしれない」

 ああ、だから脳がなくても人間の体を動かせていたのか。そこは納得した。しかし神経がつながっていたとしても虫は虫だから、人間のようなことは出来ないんだな。

 脳は寄生に邪魔だから食べたとみて間違いはなさそうだ。神経をつなぐことが出来るなら脳を残しておく必要もないだろうし。

「寄生するのって人間にだけ?」

「おい、あれ」

 俺はふと、視界に入ったものを指さした。そこには、よろよろと歩くトイプードルがいた。あの動きは明らかに見覚えがある。

「あれって……」

「ゾンビだな」

 人間じゃなくてもいいらしい。

「寄生して何をするんだろう」

「普通は繁殖とか行動範囲を広げるとかだよな」

「ああ、カタツムリとかハチに寄生するやつみたいな」

 ロイコクロリディウムだっけか。あれに寄生されたカタツムリはなんだか異様な触覚をしている。

 夜行性から昼行性にして、わざと鳥に食べさせるってやつだ。そして鳥の腸で成虫ジストマになる。

 いやそんなことを思い出してる場合じゃない。

「食べるってことは、栄養を得るためだ。小さいのが二匹いたと言ったろう」

 モリスの言葉に俺たちはピンとくる。

「あ、もしかして子ども?」

「単体で繁殖が可能なのか」

「もしくは、二匹のうちの一匹はオスかも」

 詳しくは解らないが、まったく情報がなかったときよりは進展した。だからどうって訳でもないけれど、何もないよりはいい。

「確かめる?」

 一口の言葉に俺は目を丸くした。

「生物学者じゃねえんだから、わかんねえよ」

 確かめるには誰かの頭を吹っ飛ばさなきゃならない。どう考えてもそれは吐く。それをやって脳みそ見たモリスはもはや尊敬すら覚える。

「そうか。それにしても、なんでいっぺんに寄生されたんだ?」

「そこだ」

 それが解らない。少しずつだったら対策も取れたと思うのに、こうもいっぺんに町全体が襲われるなんて。

 いつ、どんな形で寄生されたのか。

 そして、もし世界がここと同じ状況になっていたら──しばらくは不自由しそうだ。ゾンビののろさを思い出して、世界は終わらないなと思った。

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