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13発め 普通の男の子に戻れるか?

 なんとなく嫌な気分のまま3人は解散した。あんなことを言われては当たり前だ。司は食前に輪を掛けて引きつった顔で自室に戻り、直と雅貴もそれにならった。

 

「雅貴、黎慈くん……どうだった?」

 

 元はと言えば、黎慈に対する雅貴の誤解を解こう、あわよくば仲良くなってもらおうという直の好意による食事会で会った。台無しだが。しかし目的は目的なので、念のため、直は黎慈に聞いてみることにしたのだ。

 

「思ってたのとは違うけど……ヤバいね」

 

 何がどうヤバいのか。あの目か。

 思わず直は理由を求めた。

 

「オレが聞いてた黎慈と、ギャップがありすぎるんだ」

 

 黎慈は有名人である。その前科のみならず、戦場働きの苛烈さにおいても。組んだヒーローはいないので、訓練関係の職員や記録係が噂の出所だ。

 雅貴が聞いたところによれば、黎慈は変身後の身体能力が「化け物」らしい。もちろんたいていのヒーローは一般人から刷れば化け物に違いないスペックを誇るが、黎慈はそれを軽々と超えていくという。

 理論上不可能な角度から攻撃を仕掛ける、あるいは躱すのは彼にとって当たり前だ。ヒーローの装甲同様、本人の資質に性能が依存する武器にしても「斬れなかったものはない」らしい。

 

「そんな話ばっかり聞かされていたうえにあの前科だろ? もっとわかりやすい、すぐキレそうで凶暴そうな、そういう『ヤバいやつ』を想像してたんだよ。戦法も防御捨てて突っ込んでくタイプみたいだし。でも実際見たら真逆だった。それが気持ち悪い」

「気持ち悪いって……要はおとなしそうだってだけだろ? 戦い方と性格って必ずしも一致しないんじゃないのか?」

 

 雅貴が眉間のしわを深くしたのに、直は気付かない。雅貴こそ、己の性格と能力の不一致を噛みしめているのだ。

 

「それにしたって、一致しなさすぎ。4年も実戦投入されてるなら、普段の暮らしにしたってそういの、滲み出る物なんじゃないの? なのに、なにあれ。もたもたしすぎ。変身したら別人格でも出てきてんの? もしくは洗脳されてんの? ……オレも実はされてたりしてね」

 

 ひょいと肩をすくめる雅貴。堂に入った挑発的な態度と口調に、つい直も熱くなる。強い口調で、あの言葉を蒸し返した。

 

「黎慈くんに死んで欲しいっていうのは、なんなんだよ。何を根拠に……黎慈くんがすごい戦力なのは雅貴も言ってたじゃん!」

 

 本人も気付かぬうちに、また立ち上がって喋る直。それををよそに、雅貴は椅子に深く腰掛けたまま腕を組んだ。

 

「前科持ちだもん。また、やるかもよ」

「でも4年も……!」

「オレ言ったよね? まだ4年って。業界的にはもう4年、だけど」

 

 まだヒーローのなり手が少なかった4年前とは状況も違う。今や「職業」として世間に認知されつつあるヒーローは、少年少女、かつてそうだった大人たちを巻き込み、劇的に数を増やしつつある。殺人的なスケジュールを課して、戦死か過労死かという「職場」ではなくなったのだ。

 人手不足が解消されれば、有能であることを差し引いても、爆弾を抱えた人間をわざわざ使う必要は無い。

 

「今でも半分モルモットみたいなものなんだから、専業モルモットにするか、もっとシンプルに……処分するのもアリだとオレは思うね。普段がアレだとしてもさあ。対応後に変身したまま、避難地域外に行って民間人相手にやらかしちゃったらどうすんの?」

「でも、変身さえしなかったら黎慈くんはただの人間なんだろ? そんなひどいことじゃなくて、なんか、こう……ヒーローと関係ない、普通の人にはなれないのか!?」

「普通ねえ。書類上死んでる奴のどこが普通なの? そりゃあ機関なら、うまいこと別人にしたり出来るのかもしれないけどさ。それにしたって、あいつだいぶ薬剤調整受けてるから、機関離れて投薬止めたら多分死ぬよ。無理無理」

 

 直は黙って、うつむいた。

 より感情的な言い返しを覚悟、もとい期待していた雅貴としては拍子抜けだ。二人きりの部屋に沈黙が流れる。空調だけが、微かに唸りを上げている。

 

 その静寂を破る、電子音。

 出所は雅貴のポケットだ。

 雅貴はめんどくさそうに端末を引っ張り出して、通話ボタンを押す。

 

「はい一陣。……今から? はいはい行きますよーっと」

 

 直は既視感を覚えていた。ついさっきもこんなことがあった。そうだ、黎慈。黎慈が呼び出されたのだ。そしていま、雅貴も。

 雅貴と交わした不穏な会話が、否応なしに蘇る。

 顔を上げた直は、よほど顔色が悪かったのだろう。

 してやったりの悪い顔で、雅貴は言った。

 

「オレも消されるかな?」

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