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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
3章 ヤンデレ妹の兄は先輩の彼氏を演じるようです。
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代々伝わる言い伝え

 新幹線を降りて、一時間に二、三本しか走らないバスに乗り、向かった場所はあたり一面が鬱蒼と生い茂った木々が彩る山々に囲まれ、緑豊かで自然豊富でのどかな場所だった。


 耳を澄ませば川のせせらぎや鳥の囀りが聞こえる街。いや、正確には村と言う方が正しいだろう。だって、正真正銘の村だし。


 所狭しとまではいかなくとも、建ち並ぶ家屋は年季の入った木造建築で、視界いっぱいに広がっている畑や田んぼは懐かしくて感慨深いものがある。


「……いい場所ですね」


 それはお世辞でも何でもなくて、夜の本心だった。


 別に、特段とアウトドアが好きなわけじゃない。寧ろ夜は完全インドア派だ。


 けれど、鋼鉄の塊に囲まれまくった都会よりも、自然豊かな田舎の方が空気も澄んでいておいしいのだ。自然と、そう思っても無理はない。


「……わたしは、そうは思わないな……」


 だが、そんな夜の問いかけは瑠璃の寂し気で悲し気で冷たい返答に一刀両断された。


 そこで、夜ははたと気付いた。自分が、どれだけ無神経なことを言ってしまったことに。


 瑠璃にとって、実家のあるこの村ですら恐怖を、不安を増長させるものだけでしかない。いろいろな思い出が残っているというのに。


 かける言葉が見つからない。そもそも、どんな言葉をかければいいのかわからない。だから、ただ黙っていることしか出来ない。


「……ねぇ、夜クン。寄り道したいんだけど……いいかな?」

「俺に断る理由はないですよ」

「うん、ありがと。それじゃ行こ、夜クン」


 そう言って、瑠璃は夜の手を取り歩を進める。


 ぎゅっと握ってくる手はやっぱり震えていて。手を繋いできたのもはぐれないようにとか恋人を装うためというよりも、恐怖や不安を紛らわすためなのだろう。


 瑠璃は明らかに無茶をしている。


 それは、横目に見て取れる瑠璃の痛々しく、辛そうな表情から痛いほどわかる。


 後輩として、友達として、その無茶を見過ごすことは出来ない。辛い顔をさせたくない。


 けれど、夜に瑠璃を止めることは出来ない、否、正確には止めたくないのだ。


 二人とも、考えないようにしていても薄々勘づいてはいるのだ。


 もしかしたら、二人にとっての〝最後の思い出〟作りになるかもしれないと。


 もちろん、これを最後の思い出にするつもりなど夜にも瑠璃にも毛頭ない。あるはずがない。


 だけど、何度言葉にしていようと、どれだけ信じようと、絶対なんてこの世に存在しない。


 だから、万が一の場合に備えて……いや、違う。


 無理をしてでも、嫌で嫌で仕方がなくとも。何とか楽しい思い出にしたいのだ。近い未来、こんなことがあったねと笑いながら話せる思い出にしたいのだ。


 それが、無理なことかもしれないとわかっていても。




 歩くこと三十分ほど。立ち寄りたかった場所に到着したのか、瑠璃は足を止めた。


 瑠璃と夜の目の前には、神社があった。


 豪華で立派……ではなく、大き……くもない。


周りの木々に同化するかのように。苔が石段を緑に染めていて。鳥居もところどころ朽ちている。そんな、小さな小さな、けれど何か神秘的なものを感じさせる神社だった。


「ここは……?」

「子供の頃にね、おばあちゃんに教えてもらった神社なの。星城家に代々伝わる言い伝えと一緒に」

「言い伝え、ですか……?」

「うん。恋人と一緒に来たら、何でも願いが叶うんだって」

「……俺たちの場合はどうなるんですかね……」


 二人の関係は、恋人といっても偽物。本物ではない。


 この際、神様が実在するしないは置いておいて。言い伝えが本当かどうかも置いておいて。


 偽物の二人の願いを、神様は聞き届けてくれるのだろうか……。


「わからない……けど、叶えてくれるよ、きっと」

「そう、ですね」


 願いが叶う恋人の定義はわからない。けど、お互いを想い合う男女のことをいうのなら、二人だって十分当てはまるだろう。


 だから、願いは叶うはずだ。二人は、そう信じている。


「それじゃ、行こっか。本当は行きたくなんかないけどね……」

「大丈夫ですよ。頼りない俺が付いてます」

「そんなことない……とは言えないかな……」

「そこは否定してくださいよ……」


 お互いに冗談を言い合いつつ。二人は神社を後にした。


ども、詩和です。お読みいただきありがとうございます。

さて、今回はいかがでしたでしょう。楽しんでいただけたなら幸いです。

あかり達三人が出てきましたが、どうでしたでしょう。少し、病んでしまった三人を書けたのは個人的に嬉しかったです。

人は自分に不都合なことがあればそれを忘れてしまう。でも、時には思い出すことも大切なのでは? と思うのです。

夜も、落ち込んで、落ち込みまくったからこそ、立ち直ることが出来た。きっと、夜ならやってくれるでしょう!

次回はいよいよ、瑠璃の選択の結果がわかります。一体、瑠璃はどんな選択をしたのか、ぜひお楽しみに。

それでは今回はこの辺で。

それでは次回お会いしましょう。ではまた。


※2020/10/30にちょっと改稿しました。

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