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兄が好きな妹なんてラブコメ展開はありえない。  作者: 詩和翔太
3章 ヤンデレ妹の兄は先輩の彼氏を演じるようです。
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エイプリルフール番外Ⅰ 本物にしたい嘘

 四月一日。一月が新年の始まりとするならば、四月は新学期の始まりである。まぁ、そんなことはおいておいて。


 夜は街の広場にある噴水の前で誰かを待っていた。時刻は十一時だ。


「お、お待たせ……」

「お、おう……」


 夜が待っていた相手は、茶髪をおさげにし、碧眼の瞳をうるうるとさせている梨花だ。


 実は、二人はデートの約束をしていたのである。という前提で待ち合わせをしたのだ。


 数日前……。


「は? で、でぇと!?」


 突然のことで鸚鵡返しに叫んでしまった夜の口を慌てたように押さえて声を出さないようにさせている梨花が勘違いしないでよね! と叫ぶ。


「あんたの妹のブラコンを治す手伝いをしようと思ったのよ」

「な、なるほどな。ったく、紛らわしいことすんなよ」

「か、勘違いしたのはあんたでしょ?」


 どうやらそういうことらしい。梨花はデートをすることであかりのブラコンを治すのを手伝ってくれると言いうらしい。だが、


「でも、それだけでブラコンが治ったりすんのか?」

「ま、まぁ、あかりちゃんならつけてくると思うし、問い詰められてもエイプリルフールだからとか言えば誤魔化せるでしょ?」

「だから、四月一日にしようとか言っていたのか。ていうかあかりが尾行するのは確定なのな」


 あかりなら十中八九、夜を尾行するだろう。いつも出掛ける時に何処に行くのか、何をするのか明確にしないと納得しないあかりだ。街に行く、梨花とデートしてくると言えば、あかりは間違いなく夜を尾行する。尾行しなかったらそれはもうあかりではない。


 そして、四月一日はエイプリルフールだ。嘘を吐いてもいい日なのだ。ならば、問い詰められたとしても嘘だからの一言で誤魔化せるはずである。だが、それはその場しのぎで、帰ったら尋問されるのは間違いないだろうが。


「わかった。ならデートするか」

「う、うん……」


 こうして、梨花はあかりの兄離れの手伝いをするという前提でデートにこじつけたというわけだ。因みに、夏希と瑠璃には言っていない。言えば、間違いなく僕が、私が、となるだろう。それだけは何としても阻止せねばならぬのだ。


 そして、四月一日に戻る。


「よ、夜、この服どどどどうかしら?」

「に、似合ってんじゃないか?」


 梨花はデートということで気合の入れた服装をしている。スカートの裾を掴みながらくるくると回転して、赤面しながらも夜に服の感想を聞いてみれば、夜も恥ずかしそうにしながらも似合うと言ってくれた。梨花は内心、恥ずかしさ半分、嬉しさ半分といった感じだ。


 そんな付き合ってまだ数時間といった感じの初心な二人を見ながら、不穏なオーラを発する人影が三人《、、》。あかり、夏希、瑠璃だ。


 実は、夜が梨花とデートしに行くと言われたあかりは、確認のため夏希と瑠璃に電話していたのだ。勿論、二人は何のことか知らない。そして、それならば尾行しようということになったのだ。


 電柱から顔をトーテムポールのように出している三人を見て、通行人はひっ!? と悲鳴を上げながら慌ててその場を離れていく。三人とも、張り付いたような笑顔をして、目が死んでいるのだ。それを見た人が怯えても仕方ないと言えば仕方ない。


「いい雰囲気ですね、あの二人……」

「そうだね、ナイト楽しそー……」

「梨花クンもやるじゃないか……」


 三者三様の感想を漏らしながら、三人は恋人繋ぎで何処かへ行こうと歩き出した二人を追うべく歩き出した。不穏どころか殺意まで乗せたオーラは通行人にモーセのように三人が歩けるよう道を開けさせ、飛んでいる鳥ですらあまりの恐怖に墜落していく。夜は背中に感じる冷たすぎる視線にまさか三人いないよな? と思いながら、横で幸せそうに笑う梨花を見て目的忘れてねぇよな? と思いながら歩を進めるのだった。




 夜は梨花に連れられるがままに服屋に来ていた。夜に似合う服を選んでほしい、ということだったが、やはり楽しんでいるように思える。因みに梨花は、夜が似合いそうな服を選んでそれを試着しに行っている。夜は試着室の前で待っている状態だ。


「う~ん、やっぱりいるよな……」


 夜は気付いていた。背後から向けられる視線があかり、そして夏希と瑠璃からのものだと。どうして二人がいるかはわからないが、一つだけわかることがある。向けられる視線が極寒の如く冷たいのだ。冷たすぎるのだ。


 夜が戦々恐々している間に、梨花は着替え終わったようで、夜がちゃんといるか聞いてきた。


「夜、ちゃんといる?」

「あぁ、いるぞ~」

「じゃ、じゃあ開けるね」


 そう言って試着室のカーテンを開けて姿を現した梨花は、可愛かった。それはもう可愛かった。普段の梨花とは違った雰囲気の衣装なのだが、それを着こなすのは流石お嬢様と言ったところだろうか。梨花の透き通った青い瞳のような色をしたカーディガンに、黒のロングスカート。スカートの裾をちょこんと掴んで首を傾げて似合うか聞いてくる様は、可愛いの一言だった。


「似合ってるかな?」

「に、似合ってんじゃねぇか?」

「ねぇ、さっきと同じこと言ってない?」

「……か、可愛いと思うよ」

「! あ、ありがと……」


 自分から聞いて可愛いと言われたから赤くなる。今日はツンよりもデレの方が多めの梨花さん。クラスメイトや彼女を慕う人が見たら目を疑うだろう。


「じゃ、じゃあこれにする」

「そうか、それじゃあ買ってくるから」

「え、いいの?」

「は? だってこれデートだろう?」

「う、うん……」


 夜がデートと言ったのはあかりが見ているので言ったのであって、それで梨花が赤くなるのは言ってしまえば勘違いなのだが、夜は黙っていることにした。


 夜は店員さんにお金を払い、恥ずかしそうに感謝を述べる梨花と気にするなと手をひらひらと振る夜を見てお似合いのカップルですね! と言葉の爆弾を落とし、梨花はまんざらでもなさそうに照れ、夜は背後から向けられる殺気に内心、冷や汗を掻いていたのは言うまでもないことだろう


 その後、昼食を食べ、ゲーセンで梨花が欲しいと言ったぬいぐるみを取り、それでまた向けられる殺意が濃くなったり、色々と大変な一日だった。


 そして、街合わせていた噴水の前。


「今日は楽しかったわ。ありがとね、夜」

「まぁ、俺も楽しかったよ」


 梨花は幸せといった表情だが、夜の笑顔は引き攣っている。背後の三人から向けられる視線が怖いのだ。後ろを向くだけで怖い。目が合っただけで死ねそうである。


「さてと、俺はそろそろ――」


 帰ろう。そう言おうとしたその時、一番恐れていたことが起きた。


「おにいちゃん」「ナイト」「夜クン」


 三人同時に発せられたその言葉。夜はギギギと壊れたロボットのように後ろを振り向いた。勿論、そこにいるのは――。


「あかりちゃんに夏希ちゃん、瑠璃先輩……」

「梨花さん、おにいちゃんとのデ・ぇ・トは楽しかったですか?」

「ナイトも楽しそうだったね」

「デレデレしていたからね……」


 梨花も頬を引き攣らせている。先程までの笑顔は嘘のように消えていた。


「あのな、三人とも俺たちは……」

「恋人」

「へ?」

「わたしと夜は付き合っているの」


 夜はどうにか納得させようとあかりのためにとかなんとか理由を言おうとしたのだが、梨花が爆弾を落とした。それはもう原爆級の爆弾を。


「……どういうことなの? おにいちゃん?」

「ナイト、ちゃんと説明して?」

「洗い浚い吐いて貰うよ、夜クン」


 ハイライトの消えた瞳で幽鬼のように迫ってくる三人に、夜は本能の命ずるがままに後退る。


「なんてね、今日はエイプリルフールでしょ? 今のは嘘よ、う・そ」


 梨花の噓という言葉に何とか納得した三人は、夜とのデートの約束を強引にして各々帰って行った。


 帰り道。梨花は頬が赤くなっているのを自覚しながら、いつか本物の恋人に……と密かな夢を抱くのだった。


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